第34話 岐阜城奪還

「殿!いかが致しますか!?この岐阜城は一度落城し、修復もまだ済んでおりませぬ!ここで耐えきることは……。」

「わかっておるわ!」

 

 側近の言葉に怒鳴る家康。

 しかし、その言葉は事実で、家康がたどる末路はどう頑張っても敗北だけであるのは誰の目にも明らかであった。

 

「……これ以上兵を失う訳には行かん。無駄な戦は避けるべきじゃ。降伏しよう。」

「殿!今しばし待てば関ヶ原から逃れてきた者達がここへ来ます!今しばしの辛抱です!」

「そのような寡兵ではどうにも出来ぬわ!それに、真田がそれを許すはずがなかろう!」

 

 その家康の言葉に、側近は何も言えなかった。

 

「……致し方無いんじゃ。降伏の使者をだせ。」

「は。」

 

 側近は頭を下げるとその場を去った。

 

「後は秀忠に託そう。さて、儂は六条河原辺りで首をはねられるのかのう?」

 

 

 

「降伏?」

「は。城を明け渡すとの事に御座います。」

 

 城の包囲を完了してから数刻後。

 降伏の意思を伝える使者が現れた。

 しばらく考える。

 こちらとしては嬉しい申し出ではあった。

 

「真田殿、どう考える?」

「……素直に受け取って宜しいかと。城に誰がこもっているのかはわかりませぬが、敵は寡兵。この兵力差、そして城の防御力から見ても我が方が有利。特に警戒しなくても大丈夫でしょう。」

 

 追討軍に集まったのは南宮山の毛利秀元、吉川広家。

 そして真田昌幸と織田有楽斎に織田秀雄。

 将は少ないが、率いる兵の数は多く、士気も高かった。

 真田昌幸の言葉を受け、秀則は決断する。

 

「では、降伏に応じようと思います。各々、異論はござらんな?」

 

 陣に集った将達は頷く。

 

「では、降伏の受け入れの為、城主と会おう。城内へ案内せよ。」

「はっ!」

 

 

 

「……まさか、城主が貴方様だとは。徳川内府殿。」

「……知っていてここに来たのだと思ったのだがな……。」

 

 秀則が城内に入り、通された間には徳川家康が座っていた。

 何故か雑兵の鎧を身に纏っており、ボロボロであった。

 

「さ。お座り下され。」

 

 家康に城主が座るべき場所。

 元々秀則の兄、秀信が座っていて場所に座り、家康と対峙する。

 一応真田昌幸も付いてきていた。

 昌幸と家康が一瞬目を合わせたが、すぐさま目を逸らした。

 

「この岐阜城、降伏し、開城いたす。その際、将兵の命は助けていただきたい。」


 家康は頭を下げる。


「……内府殿は?」

 

 家康は面を上げると、堂々と口を開いた。

 

「……儂は大阪にて処罰されるはず。ここでおいそれと腹を切る訳には行かぬ。」

「……そうか。」

 

 家康は軽く頭を下げた。

 

「岐阜城を明け渡す。それで、どうか勘弁してはもらえぬか?」

「内府殿。面を上げて下され。」

 

 秀則がそう言うと家康は頭を上げる。

 

「何も無駄に命は取らん。将兵の命は助ける。無論、内府殿もだ。」

「おお!ありがたい!」

 

 すると、真田昌幸が少し笑う。

 

「どうかされましたか?」

「……いえ、織田信長公であったならば、少なくとも城主の首は刎ねていたと思いましてな。流石にそこは似ておらぬようだ。」

「当たり前に御座います。物心つかぬ頃に、我が祖父は討たれました。似るはずがありませぬ。」

 

 秀則と話す真田を見て、家康が口を開いた。

 

「……まるで、新しい息子のようじゃな。安房守よ。どこか楽しそうに見えるわ。」

「……そんな恐れ多い。だが、必ずやお守りするつもりよ。」

 

 昌幸と家康はしばらく見つめ合うと互いに少し笑った。

 そして、家康は頭を下げた。

 

「将兵の命、助けていただき真にありがとうございまする。この家康。しかと大阪にて処罰を受けましょう。」

 

 この日の岐阜城奪還の話はすぐさま西へ伝わる。

 そして、大垣虎助が持つ三郎の指示は、この後伝わることになる。

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