第132話 為信の蜂起
「……」
第二次本能寺の変が起こる直前。
為信は三郎と共に大阪を出立し、東へ向けて兵を進めていた。。
しかしその進軍速度は非常に遅く、今だに京を抜けていなかった。
「為信様!」
すると、為信の下に伝令が駆け寄る。
そして、文を差し出してくる。
「こちらを。信包様からにございまする」
「来たか……」
為信はそれを受け取り、読む。
そして内容を全て確認すると、為信は文を懐にしまう。
「時は今……」
為信は馬を京の方向へ向ける。
そして、刀を抜く。
「敵は、本能寺にあり! 織田三郎を討ち取る!」
「おお!」
その津軽為信の言葉に兵は歓喜する。
「政宗殿と天海殿をお救いするぞ! 我に続け!」
時を戻し、燃え盛る本能寺を為信は見つめていた。
「……まだか」
「は。三郎の首はまだ見つかりませぬ」
為信は口を開いた。
「敵は殆ど討ち取りましたが、火の回りが思ったよりも早く、探しきれておらぬのが現状にございまする」
「……」
為信は蜂起を成功させた。
しかし、肝心の三郎の首は見つけられていなかった。
「……良い。三郎の首を手に入れたとて、大した影響は無い。我等はこのまま近江を抑える。三郎の首に然程価値は無い」
実際、三郎は豊臣から信頼はされているものの、織田家の当主でも無いし、特殊な役職についていた訳でも無かった。
「為信様!」
すると、為信の下に伝令が駆け寄ってくる。
「伊達政宗様、南光坊天海様、共にお救いいたしました!」
「そうか! 良くやった! すぐさまお連れせよ!」
伝令は頷くとその場を離れ、すぐさま為信の下へ政宗と天海を連れて戻って来る。
「政宗殿! ご無事で何よりで御座る!」
「為信殿……」
しかし、政宗の表情は優れない。
「政宗殿? 天海殿。伊達殿は一体……」
「……織田三郎の声が、聞こえておらぬのですか?」
為信の問いに、天海が質問で返す。
「三郎の声?」
天海は頷く。
「全ては三郎の策だと。私と政宗殿は生かしておいてやる、お前達の天下はあり得ぬ、と。そう叫んでおりました」
「……何だと」
「我等は嵌められたのだ……何もせずにいれば伊達の家名も津軽の家も守られたというものを……いや、この状況を作り出したのもあやつの策か……俺を無理矢理処刑しようとして伊達家臣らから反感を買うようにし、自ら隙を作ることで蜂起させたのか……」
政宗は続ける。
「自らの命を使って織田の天下の邪魔者を排除しようとしたか……見事だ」
すると、津軽為信は政宗の肩に手を置く。
「し、心配なされるな! 織田信包殿も我等に協力してくれている! 大阪城にて成実殿と片倉殿が秀頼公を擁立して……」
「……まて、今何と……」
政宗の返した言葉に為信は不思議そうに答える。
「成実殿と片倉殿が……」
「違う! その前だ!」
「……織田信包殿にござるか?」
政宗は溜息をつく。
「……やられた」
「……それは一体どういう事ですかな?」
「……秀頼公を擁立して、三郎の悪行を盾に我らの方が正しいと公言するつもりだったのだろうが……」
為信は頷く。
政宗は現状から為信達の策を推察していた。
「信包の手の者が、紛れておるのでは無いか?」
「……な」
為信は急ぎ伝令に指示を出す。
「急ぎ大阪に行け! 織田の手の者を捕らえよ!」
「は!」
「……無駄でしょうな」
天海が口を開く。
「信包殿が今何処におられるのか分かりますかな?」
「い、いや……」
「恐らく大阪と京、双方に同じ頃に知らせが届けられる位置におりまする。という事は、既に大阪に我らの決起の知らせは届いておりまする。そして、大阪城を抑えるように指示を出しているでしょうな」
為信は膝から崩れる。
「や……やられた」
「……ここまで来たらやるしか無いだろう」
政宗は口を開いた。
「この状況から勝つぞ……必ずや、伊達の天下にしてみせる!」
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