第173話 後始末

「……」

 

 直江兼続は辺りを警戒しながら町外れの小さな小屋へと入って行く。

 その中には、傷ついた最上家親や数名の兵が隠れていた。

 

「最上殿、大事ありませぬか?」

「直江殿……」

 

 最上家親は肩を押さえながら口を開く。

 

「少し痛む程度にございまする。問題はありませぬ」

「左様ですか……」

 

 最上家親は傷ついていたが、傷は浅かった。

 直江兼続は最上家親の前に座る。

 

「さて、今後の事について話し合うと致しましょう」

「……もはや織田の天下は揺るぎませぬな。どう頑張っても我々の勝利はありえませぬ」

 

 兼続は頷く。

 

「その通りですな。これ以上、無駄に足掻いてもみっともないだけ。足掻くだけ無駄でしょう」

「されど……」

 

 最上家親の言葉に兼続は頷く。

 

「織田の臣下……にはなれぬでしょうが、織田の天下の下をのうのうと暮らすつもりもありませぬしな」

「左様。いずれ何処かで乱が起きるかと思いまする。それに参加し、織田に一矢報いると致しましょうぞ」

 

 二人は互いに頷く。

 

「それまで、同志を増やし、力を蓄える」

「某は我が上杉旧領もあり、縁が多い東へ」

「ならば、あまり伝手はありませぬが某は西で動いてみましょう。西にも織田の支配に抵抗する者は居るはずですからな」

 

 二人は立ち上がる。

 

「ならば、善は急げ、ですな」

「うむ。では」

 

 直江兼続は頭を下げ、その場を後にしようとする。

 すると、小屋に兼続達の兵が転がり込んでくる。

 

「何事だ!?」

「か、兼続様! 最上様! お逃げ下され! 追手にございまする!」

 

 その転がり込んできた兵は傷だらけであり、その姿は外の状況を物語っていた。

 外には見張りの兵が数十名構えていた。

 それらがやられていると言うことであった。

 

「最上殿! 裏口から逃げますぞ!」

「し、承知した!」

 

 二人は小屋の中にいた手勢と共に裏口へ駆けていく。

 裏口にも数名警戒させていた。

 しかし、裏口の扉へたどり着いたその時、突如として扉が破られる。

 兵が息絶えた状態で転がり込んてくる。

 

「残念ながら、そうはさせんよ」

 

 すると、裏口から男達が入って来る。

 その先頭にいる男が口を開いた。

 

「もはや逃げ場は無いぞ? どうする? 直江兼続、最上家親」

「くっ……」

 

 男は面頬で顔を隠しており、顔はわからなかったが、かなりの手練れである事は分かった。

 その理由は、その男だけが刀を抜いていたからである。

 つまり全ての見張りを男一人で片付けたということであった。

 

「直江様!」

 

 すると、後続の兵が叫ぶ。

 背後からも敵が近づいて来ていた。

 その顔には見覚えがあった。

 

「っ……織田秀信!」

「征夷大将軍自らか……やられたな……」

 

 秀信の登場に、兼続は驚きを隠せなかった。

 そして、秀信が来ていることから逃げ場は無いということを家親は悟った。

 

「どうする? 直江殿」

「……秀信殿。景勝様はどうするおつもりか」

 

 兼続の問いに秀信は答える。

 

「流罪だ。命までは奪わん」

「……成る程。それはありがたい」

 

 兼続はその場に座り、刀を抜く。

 

「では、腹を切りまする。これ以上、我が殿に迷惑はかけたくありませぬ故」

「直江殿!? お考え直しを!」

 

 最上家親に刀を押さえられる。

 兼続は家臣の不始末の責任を負わされ、せっかく助かる命を自分のせいで失わせたくないと思ったのである。

 

「まずは話を聞きましょうぞ! 我々の処遇を聞いてからでも遅くはありませぬ!」

「流罪だ」 

 

 すると、秀信ではなく面頬で顔を隠した男が口を開く。

 

「直江兼続は上杉殿と同じ場所に流罪だ。最上殿も、流罪としよう。場所は……追々な」

「な……何故お主がそれを決められるのだ……」

 

 男は少しニヤけると、面頬を外す。

 

「俺の名は織田三郎。これが最後の名乗りだ。良く覚えておけよ」

「な……生きて……」

 

 その名乗りに、兼続達は驚愕する。

 

「貴様らの行い、全ては我が策の内。諦めよ」

「く……」

 

 兼続は刀を置く。


(……まぁ、全然予想外だったんだが)


 兼続が諦めた事を確認し、三郎は安堵する。

 

「せめてもの情けだ。主の元で一生を終えよ」

 

 三郎は兼続の肩に手を置く。

 すると、秀信が口を開いた。

 

「……三郎。それを決めるのは俺だぞ?」

「何を言う? お前ならばそうしただろ。というか、勘助がそうさせる」

 

 三朗は全て見通していた。

 それは織田信長の人格や経験、記憶を受け継ぎ、現代の知識を得た三郎の力であった。

 

「……まぁ良い。事は片付いたのだ。何も言わんさ。さて、三郎。約束通りついてきてもらうぞ」

「勿論だ。虎助」

「は」

 

 虎助は三郎に言われて懐から何かを取り出す。

 

「ん? 何を……」

 

 すると、虎助はそれを地面に投げつける。

 その瞬間、大きな音と煙が上がる。

 

「未来の知識を使ったフラッシュグレネードだ! ……光ってないけど……」


 煙の中、三郎の大きな笑い声が轟く。


「くそっ! 待て!」

 

 煙が晴れると、その場には既に誰もいなかった。

 

「……逃げられましたな」

「くっ! 秀則、追うぞ!」

「……フラッシュグレネードとは……」

 

 結局、三郎は捕まる事は無かった。

 しかしこれにて織田の天下は安定な物となった。

 三郎の最後の後始末は終わったのであった。

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