第174話 政所との対面

 数週間後。

 全国に天下惣無事令が下された。

 これにより、二度と私的に戦を起こすことは出来なくなった。

 織田の天下が確定したのであった。

 

「ここが、織田の……幕府本拠地となるのですね」

「うむ」

 

 秀信と秀則は清洲城を訪れていた。

 清洲城は古くから交通の要所として栄えていた地であり、幕府を開設するにあたり適した地であった。

 しかし理由はそれだけではない。

 

「……ここ清洲城はかつて清須会議が行われ、織田家の後継者が決まった場所でもある……」

「更にはかつての織田家の居城でもあります。……信長公が改修した、清洲城ですからな。まさに最適の城でありましょう」

 

 すると、背後からも別の男たちが現れる。

 

「岐阜は織田の本拠地であったが……山城で城下町の発展が難しくなりますしな」

 

 織田有楽斎がそう言うと、もう一人も続ける。

 

「安土も山城ですしな。それに城を築くとなると更に金がかかる……やはり、ここが最適でしょう」

 

 織田信包が平然とそこに立っていた。

 

「信包様……全て終わった故、何も言いませぬが、何か言うことはありませぬか?」

「これは心外な……結果的に織田家の天下が訪れたのですぞ。良かったではありませぬか……三郎殿も何もしなかったですしな」

 

 織田家の人間……三郎と関わりの強かった織田家の人間には三郎の生存は知らされている。

 しかしその後も姿は見えなかった。

 そして、それよりも大事な人が秀信の元を訪れた。

 

「殿! 政所様が参られました!」

「うむ。すぐに行こう」

 

 

 

「政所様。お迎えが遅くなってしまい申し訳ありませぬ」

「いえいえ、そちらの事情は分かっております。気にしないで下され」

 

 政所と秀信が対面する。

 それは大阪を奪還してから初めてのことであった。

 

「大阪城には既に戻っていましたが、秀信殿も中々お忙しいようで、会えませんでしたからね」

「ええ、天下惣無事令を出すのが急務だった故、申し訳ありませぬ」

 

 秀信が頭を下げる。

 すると、政所は少し慌てる。

 

「やめて下され。征夷大将軍がそう簡単に頭を下げてはなりませんよ」

「おっと……そうですな。いまいち感覚が分からず、苦労しておりまする」

 

 秀信がそう言うと政所は少し笑う。

 

「まぁ少しずつ慣れていけば良いのです」

「は。頑張りまする」

「……さて、例の話ですが……本当に良いのですか?」

 

 政所が話を切り出す。

 それに、秀信も意を決して答える。

 

「無論に御座います。織田家の天下を盤石な物とするため、必要な事は何でも致しまする」

「……では、この後の評定で、予定通りに」

 

 秀信は頷く。

 政所は立ち上がると、その場を立ち去ろうとする。

 その前に、秀信へ向かって頭を下げた。

 

「……秀信殿。改めてお礼申し上げまする。仇を討ってくれて、ありがとうございまする」

 

 政所はその場を後にする。

 暫く考えた後、秀信も腰を上げた。

 

「……さて、総仕上げと行くか」

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