第31話 敵の影

「三郎。これで良かったのだな。」

 

 裁定が終わると秀信が顔を出す。

 秀信の問いに頷く。

 

「うむ。全て想定通りに事が進んだ。お前のお陰だ。」

「……しかし、佐和山の城に居たはずの石田家の人間は何処に行ったのだ?」

 

 佐和山には石田三成の父正継と兄正澄、そして正澄の息子朝成がおり、城を守っていたはずだ。

 そして、史実では小早川秀秋の攻撃を受け落城。

 その際に自刃したと伝わる。

 

「……今、大垣衆を使って調べさせている。」

「大垣衆?」

 

 秀信はその聞き慣れない言葉に疑問を浮かべる。

 

「ん?あぁ。前にも言った大垣城にいた頃に集めた体力自慢の若者達だ。大垣衆と呼んでいる。」

「成る程。」

 

 今のこの立場で自由に動かせる手駒として彼らを使う。

 既にある程度の実績は残しているし、俺の家臣として抱えても良いかもしれない。

 すると、俺と秀信の元に男が駆け込んでくる。

 

「頭!わかりましたぜ!」

「おお。戻ったか小助。」

 

 小助と呼ばれた男は頭を下げる。

 この男は大垣衆の代表である。

 

「はっ!どうやら石田の一族は城を既に出たようです。その前に、石田三成の家臣の者が出入りしていたとの事で。その後は西に向かったとか。」

「西……。」

 

 石田三成の家臣と言えば、島左近だ。

 奴が何やら企てているのか。

 ……それは想定外だったな。

 

「うむ、ご苦労だった。これが今回の褒美だ。」

 

 金銀が入った小袋を渡す。

 

「へへっ!ありがとうございやす!」

「……そうだ、正式にお前達を抱えようと思う。秀信、良いか?」

「勿論。」

 

 秀信の了承を得た。

 一応主君なのでそういうところはしっかりとしておく。

 

「お前には……大垣の姓を与える。それと、名も改めよ。これからは虎助と名乗れ。そっちの方が良い。お前はこれから大垣家の虎助、大垣虎助だ。」

「大垣……虎助。」

 

 虎助は自分の名前を復唱すると深く頭を下げた。

 

「はっ!この大垣虎助!身命をとして三郎様にお使えします!」

「頭!」

 

 すると、別の大垣衆よ人間が駆け込んできた。

 

「どうした。」

「岐阜城が落城!秀則様がやりました!」

「おお!秀則が!」

 

 秀信がこちらを見る。

 

「三郎。私の判断は間違ってなかったようだ。やはりあいつも織田家の男。……もし私に何かあっても、安心だな。」

「……そうだな。」

「そ、それともう一つ。」

 

 大垣衆の男は辺りを気にしていた。

 俺はそれを察し、男に近づいた。

 男は俺に耳打ちをする。

 

「……何だと!?」

「三郎、どうした?……まさか、秀則に何かあったのか!?」

 

 俺は首を横に振る。

 辺りを見て、近くに誰もいないことを確認する。

 

「……家康が、岐阜城にいたそうだ。秀則がそれを捕えた。」

「何?……家康は立花殿が捕えた筈だろう?」

「恐らく影武者だ。危うく逃す所だったな……。」

 

 しばらく考える。

 ここで本当の家康を捕えたと喧伝すればどうなるだろうか。

 立花宗茂の立場を落とせるか?

 いや、そう簡単には行かないだろう。

 恐らく連れて来いと言われる。

 ならば……。

 

「虎助。秀則に伝えよ。」

「はっ!何と、伝えれば?」

 

 秀則の今後の立場を高めてやるとしよう。

 

「家康の首を刎ねよ。とな。岐阜城に籠もっていた敵は全て討ち取れ。証言者を残すなとな。」

「……はっ!すぐに!」

 

 虎助はすぐさま走り去っていく。

 

「良かったのか?」

「あぁ。後々、ひどい噂を立てる。家康は総大将であるにも関わらず雑兵に扮し、雑兵として討ち死にしたとな。徳川に味方した奴らの心は離れ、秀則の地位は高まるだろう。」

「……なるほどな。」

 

 これで家康は何とかなったが、後は秀忠。

 ……何処かで捕まえられれば良いのだが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る