第30話 佐和山裁定
関ヶ原の戦いの後、西軍は三成の代わりに五大老宇喜多秀家を筆頭に西軍勝利の報告を大阪城へ届けた。
西軍は大阪に凱旋、するかに思えた。
「ならぬ!小早川、織田の真意を明らかにせよ!三成殿が裏切るなど信じられぬ!そのような者等をここに入れるわけには行かん!」
大阪の淀殿は小早川、織田が石田、大谷を討ち取った事に不信感を覚え、大阪入城を拒否。
三成の城であった佐和山で論功行賞、及び小早川、南宮山の毛利、織田の真意を確かめ、徳川や東軍に味方した諸将の処罰の会議を開いた。
大阪からは片桐且元が遣わされ、双方の言い分を聞き、最終的な判断を任される運びとなった。
「では、これより小早川様、織田様、毛利様、吉川様の意見をお聞きします。」
吉川、毛利は既に真田昌幸と共に東へ向かったので、現地にはいないが、名代として安国寺恵瓊が来ていた。
片桐且元が意見を聞き出す。
「まずは、私から。」
まず秀信が口を開いた。
「関ヶ原において我等は怪しい動きをしていた小早川様の為に松尾山の麓に布陣しておりました。我等はお味方優勢と見て布陣の必要は無いとかんじ、後は大谷様にお任せし、前線へ加わろうと思い、三成様に伺いに参った所……。」
「その際のやり取りに三成様から天下への野心が感じたられたと?」
秀信は頷く。
「は。これで天下を取ろうとする徳川は討ち滅ぼした。この三成が勝ったのだ。と。これで皆も見直してくれるだろうと。自分の立場は安泰だと。そのような事を申しておりました。これは皆の求心力を得た自分が秀頼公に代わり、天下を取ることが出来ると暗に申している物と捉えました。」
「それは、ただの言いがかりではないか?」
すると、話を聞いていた立花宗茂が口を開く。
「そもそも本当に三成殿の陣を訪れたのか?それすらも怪しい。」
「それは、我が家中の者がしかと聞いておりました。」
すると、長宗我部が口を開く。
「我が家中の者が当時三成殿の陣を訪れており、確かにそう話していたと聞き及んでおりまする。それをどう捉えるかは個人の勝手。されど、三成殿言葉からは確かにそのように感じられたと言っておりました。」
「某もそう聞き及んでおりまする。」
安国寺恵瓊と長宗我部は密かにこちらに目配せをする。
長宗我部にはあらかじめ話を通しておいた。
が、嘘だと知られるとまずいので自分が三成の陣に行ったことを証言してもらった。
報酬として四国を約束したのである。
安国寺恵瓊には何もしていないが、恐らく毛利に有利になるように事を運べと言われてきているのだろう。
「……では、小早川様。いかがですかな?」
「は。」
片桐且元の問いかけに、小早川が口を開いた。
すると、宇喜多秀家が目を光らせる。
小早川も豊臣の一族である。
宇喜多秀家も秀吉の一門衆として扱いを受けており、この場は宇喜多、小早川どちらが三成亡き後の豊臣政権を率いていくかの会議の場でもあった。
「本音を申し上げますれば、我等は当初、徳川方から内通の使者を受けており、徳川に内応を約束しておりました。」
「やはりか金吾!貴様!」
その小早川の言葉に秀家は激昂する。
刀に手をかけた所を立花宗茂に止められる。
金吾とは小早川秀秋の事である。
「されど、太閤殿下への恩義を忘れる事はありえませぬ。太閤殿下への忠義を果たすため、織田様に協力致した次第。」
「大谷様を討ち取ったのはどういった訳ですかな?」
片桐且元が聞き返す。
「は。大谷刑部は三成とは昵懇の仲。三成が天下取りに乗り出せば必ずや大谷も味方するかと思い、先手を打ったまでの事。」
「……成る程。宇喜多様。何かございますか?」
「……無い。三成殿がそのような事をなされるとは到底思えぬが、それを証明することが出来ぬ以上、認めざるを得まい。」
片桐且元は頷く。
「待たれよ!しかし、小早川殿は徳川に内通していたという。そんな人間を信用して良いのか!?」
「立花殿、言葉が過ぎますぞ。」
宇喜多の言葉に立花宗茂が反応する。
が、それを片桐且元が諌める。
「……確かに、そう安々と信頼するわけには行かぬ、か。では小早川殿、此度の戦で徳川に味方した諸将はどうするつもりか?お主の考えを聞かせよ。」
「そこについてはしかと考えておりまする。徳川に味方した諸大名は所領を召し上げ、一家臣として徳川の家臣となってもらいまする。そして、徳川の所領も一部、付近の者に割譲させようかと。これらについては皆様方の意見をお聞きしたい。」
「何故、徳川の家臣とするのだ?」
小西行長が口を開く。
「は。徳川の力を削ぐために御座います。徳川に味方した者は多い。それら全てを徳川で抱えるとすれば俸禄がじきに払えなくなり、財政は悪化するでしょう。その後、徳川は内輪揉めによって崩壊。もしくは挙兵に至るでしょうが、此度の戦のように鎮圧すればよいだけのこと。」
小早川かそう言うと場は静まり返った。
内容が徳川に有利になるものや、豊臣が不利になるものであれば皆は異論を挟んだだろうが、誰も口を挟めなかった。
その静寂を片桐且元が破る。
「では、小早川様、織田様、毛利様吉川様の処遇についてはお咎めなし。徳川方の処分については先程小早川様が申された通り、という事でよろしいですかな?」
だが、誰も答えない。
「……この沈黙は肯定と受け取ります。私はここで決まった事を大阪に伝えまする。恐らく、後々大阪に集められ、正式に沙汰が下るでしょう。それまでごゆるりとなされて下され。」
片桐且元は頭を下げるとその場を去った。
(金吾、まるで人が変わったかのように聡明だ。……裏に誰がおる?……織田か?つまりは織田の策略か?)
宇喜多秀家は未だ疑いの目を晴らさなかった。
が、それも三郎にとっては織り込み済みであった。
佐和山裁定の様子を遠くから密かに見ていた三郎は自身の思い通りに事が進んでいることを確認する。
(……次は、宇喜多か。もしくは立花。豊臣への忠義の厚い者を排除しなくてはな。)
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