第29話 惑う西軍

「我が立花は織田殿にお味方する。真田殿も同じだ。」

「立花殿!我が殿が天下への野心を持つ等ありえませぬ!お考え直しを!」

「……同じキリシタンとしてこの小西行長も織田殿を信用し、お味方する。それに、これ以上無駄な血を流すのはよろしく無いかと。」

 

 西軍諸将が集まり、会議を続ける。

 すると、宇喜多秀家が口を開く。

 

「我等も小西殿と同じ思いだ。無駄な戦は避けたい。もし仮に小早川、織田に天下への野心ありと見れば此度のように戦えば良い。そうであろう、立花殿。」

「……うむ。」

 

 立花宗茂は家康を捕えた事になっている。実際には本多忠勝であるが、皆には家康と伝えている。

 

「……長宗我部も賛同致そう。」

「この長束正家も賛同致す。」

 

 場が纏まりつつあるその時、陣に島津義弘と福島正則が入ってくる。

 最も遠くに離れた秀忠を襲っていたので到着が遅れた。

 

「済まぬ。殿しんがりの井伊直政勢に手間取った。」

「秀忠を取り逃した。申し訳無い。」

「いや、家康は捕らえられたのだ。それで充分。」

 

 東軍は敗走しつつも秀忠を逃す為に奮闘し、秀忠は逃げる事ができたのだった。

 秀家がそう言うと二人は席に座った。

 

「さて、織田殿の文は読みました。各々方。儂は、島津は、織田殿を支持致す。」

「無論、この福島正則も秀信様を支持いたしまする。」

 

 この二人のこの発言により、場の総意は固まった。

 島津は赤坂の夜襲で自分の夜襲策を支持されたことに多少なりとも信頼されていたようであった。

 

「では、我々はこのまま大阪へ戻る。秀頼公に戦勝の報告をする為にな。」

「少し、宜しいか。」

 

 すると、会議の場に真田昌幸が姿を表す。

 

「真田殿か。如何なされた。」

「我等は上田へ帰らせてもらいまする。ついでに南宮山の毛利勢と共に岐阜城を取り返し、上田城を助け、江戸の徳川の押さえといたしまする。それと、帰路で秀忠を探しながら帰るといたしまする。」

「成る程、ではそちらはお頼み申す。」

 

 これで意見は固まったかに思えた。

 が。

 

「……納得が行かぬ!織田は決して許さぬ!あやつこそが裏切り者!この島左近。その決定には決して従いませぬ!では!」

 

 島左近はそう言うと、一人陣を離れていった。

 

「宇喜多様、宜しかったのですか?」

「うむ、小西殿の心配もご尤もだが、石田三成の只の家臣の島左近にはもう何も出来ぬ。なんの力も無いからな。」

 

 宇喜多秀家は立ち上がり、指示を出した。

 

「では各々方。これより大阪へ戻る!」

「はっ!」

 

 三郎が恐れていた西軍諸将の反撃は無かった。

 皆が去った後、福島正則に真田昌幸が話しかける。

 

「……織田殿は大したお方だ。福島殿も兵を置いて来たのでしょう?」

「うむ。秀信様等と戦うことになれば、真田殿と我が福島勢が最後方となる。織田殿はそれを見越して陣を動くなと申された。背後を突かれればひとたまりもないからな。」

 

 三郎はあくまで戦わずに済むならばそれが良いと考え、福島、真田を抑えとして置くことで戦に発展することを防いだのだった。

 全ては三郎の思い通り。

 かに見えた。

 

 

 

「……織田秀信。決して許さぬ。」

 

 関ヶ原を東へ進む軍があった。

 大将は、島左近。

 

「左近様、どうするのですか?」

「新之丞殿。お主は兵庫殿と共に西へ。織田が勢力を伸ばす前に我等の味方を作っておくのだ。……黒田辺りが良いだろう。」

 

 左近は織田秀信への復讐を決意していた。

 

「左近様は?」

「儂は、まず真田の信繁殿に会いに行く。あのお方の奥方は大谷様の娘。味方してくれるやもしれぬ。結果がどうあれ、その後は北、伊達、上杉辺りを頼るつもりだ。……状況次第では徳川も良いやもしれぬな。」

 

 島左近は拳を握りしめる。

 

「織田め……。必ずや討ち取ってくれる!」

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