第4話 武藤砦の戦い
「岐阜城……か。」
太閤豊臣秀吉が仕えた主、織田家の本拠城。
自分の若かりし頃、お仕えした家である。
それを攻めるというのは良い気分とは言えなかった。
「細川殿!先にゆくぞ!」
「福島殿か。良い、譲ろう。」
細川忠興の父、細川幽斎は本能寺の変の際に明智に味方しなかった。
その結果、明智は負けた。
後の世で細川幽斎は明智と通じており共謀して本能寺の変を起こしたが、途中で掌を返したとも言われている。
事実、細川忠興の妻は細川ガラシャといい、父は明智光秀であった。
幽斎が本能寺の変に関わっていたかどうか、真実か否かは定かでは無い。
が、山崎の戦いの折、幽斎が要となっていたのは事実であろう。
その細川幽斎は既に隠居しており、忠興が当主を努めていた。
「父上……。」
関ヶ原の戦いで幽斎はわずか500の兵で籠城し、西軍の一万五千の兵を約二ヶ月にわたり食い止めた。
東軍勝利の貢献者の一人である。
「行くぞ!我に続け!」
福島勢が山を登っていく。
かつての主家を攻めるというのに、士気が高い。
「まぁ、良いか。我々も福島勢に続くぞ!」
この戦、東軍諸将は完全優勢であると油断していた。
事実、史実ではわずか一日で陥落している。
だが、今は違う。
第六天魔王が、舞い戻ってきている。
「敵を一兵たりとも通すな!敵はかつての主家に逆らう反逆者達だ!全て討ち取れ!」
「おぉ!」
福島勢が武藤砦に攻めかかる。
「大岡家師!門櫓から弓を射掛けよ!」
「はっ!」
大岡家師は弓の名手を連れて門櫓へと登る。
織田勢の弓の名手等により、攻め手が次々と射倒されていく。
その戦況に、福島勢の先鋒は微かに怯んだ。
「今ぞ!この木造長政について参れ!」
木造長政。
織田家の家老である。
初め、秀信に東軍に与するように進言した武将でもある。
父の代から織田家に仕えた武将であり、父は伊勢の名門、北畠家の人間である。
父の兄には剣聖である塚原卜伝や上泉信綱等から剣術を教わっており、塚原卜伝からは奥義である一の太刀を授かったと言われる北畠具教がいる。
「弱い!賤ヶ岳の七本槍の軍はこの程度か!」
史実では木造長政は二十人の槍の使い手を引き連れ、戦ったと伝わるが、この世界では小田三郎の策により瑞龍寺山砦の兵が加わっていた。
寄せ手を一町ばかり追いまくる活躍を見せたと言われるが、この世界ではさらなる活躍を繰り広げていた。
「ほう!木造が働き見事なり!侍大将はかようにあるべし!」
「殿も、敵をお褒めになることよ。」
福島正則が木造長政をそう褒め、家臣の大橋重賢が苦笑していたという。
そして、大橋は前へと進み出る。
「我に続け!押し返すぞ!」
「応!」
大橋も自ら槍を振るい、木造勢と当たる。
乱戦の中、木造長政と大橋重賢は直接対峙した。
「っ!中々やるな!」
「そちらこそ!やはり福島勢は強いな!」
しかし、大橋は違和感に気が付く。
乱戦の中でも分かるほど、後方が騒がしいのだ。
「隙あり!」
「っ!」
その一瞬の隙を木造は見逃さなかった。
木造の槍は大橋を貫いた。
「……見事、なり。」
「……そちらこそ。」
木造が槍を引き抜くと、大橋はその場に崩れる。
「敵将!討ち取ったり!」
木造の声が戦場に響く。
その声を聞いた兵はすぐさま逃げて行った。
気が付けば逃げて行く敵兵の方向に、福島勢の姿は無かった。
「ん?これは……殿の策がはまったようだな。我等の勝ちぞ!」
武藤砦に勝鬨が上がった。
「武藤砦は勝てたようですね。」
「あぁ。木造がやってくれたな。」
「そして、それに合わせて稲葉山砦から奇襲。後方の動揺は福島勢にも影響を与えたようですね。」
天主から戦況を見渡す。
武藤砦から兵は引き、福島勢は後方で被害を受けた細川勢の救援に駆けつけたようだ。
「…… ん?あれは……。」
気が付けば、瑞龍寺山砦の方角より軍勢が近付いてくる。
「秀信。まだ兵を残していた訳では無いよな?」
「……はい。全軍撤収致しました。」
「ということは、まさか……っ!あれは!」
遠くに見える軍勢は、旗印が見えずとも分かる。
真紅に染まった甲冑。
全員がそれを身に纏い、赤備えの軍勢が近づいて来ていた。
あれは……。
「……井伊の赤備えか!」
「……織田秀信。」
権現山砦の罠を強引に突破した井伊直政は、瑞龍寺山砦を攻める友軍を救援せず、急ぎ本丸へ向かった。
権現山砦の一件から、これが只の時間稼ぎであることを悟ったのだった。
「殿!武藤砦をせめる部隊が後方より奇襲を受け、砦に攻め寄せていた福島様は後方の細川様の軍を救援するために引き返したようです!」
「……奇襲。」
井伊直政はしばらく考えた。
「只の戦下手では無いか。」
「いかがなさいますか?」
家臣が直政に問いかける。
「武藤砦を攻めるぞ。福島勢は放っておけ。」
「はっ!」
直政は天主を見つめた。
「織田秀信……油断は出来ぬな。」
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