第109話 関ヶ原へ、いざ

「……申し訳ありませぬ。してやられました。まさか全軍で大垣に攻めてくるとは……」

 

 豊臣方は一度岐阜に集い、後の作戦について話し合っていた。

 そして、黒田長政らから、大垣城を攻められ、たまらず引いてきた事を聞かされていた。

 

「いや、充分に御座る。兵を死なせず、兵糧も無事に運んで下さっただけで充分。それに、敵の動きもわかりましたしな」

 

 三郎は地図を見つめながら話す。

 

「敵は美濃赤坂に陣取り、こちらの様子を伺っておりまする。しかし、それだけでは無いでしょう」

 

 三郎は机上の駒を関ヶ原へ動かしていく。

 

「恐らく、あの伊達政宗、そして天海ならば数的不利を補うために、そして、確実に勝つために、かつての我等のように関ヶ原へ陣取るでしょう。されど、立場は逆」

 

 その言葉に、信康が反応する。

 

「つまりは、我等が父上のように敵の包囲網に突っ込むというのか? あの戦は小早川殿を寝返らせるという算段があったからこそ父上は関ヶ原へ向かったのだぞ?」

「勿論、分かっておりまする。されど、ここで手をこまねいていては、徳川方は大阪へ兵を向けるでしょう。そうなっては、我々の負けにございます。それに、兵力で言えば我々の方が勝っております」

 

 すると、輝元が口を開く。

 

「つまりは、我等は北陸の援軍を待たずして、関ヶ原へ乗り込まなくてはならんのか……」

「何を恐れる事がありますか!?」

 

 すると、輝元の弱気な態度に島津豊久が口を開く。

 

「兵の数では我等が勝っておりまする! それに、叔父上もおりまする! 負けるわけがありませぬ!」

「豊久、よさぬか。気持ちは分かるが、抑えよ」

 

 義弘が豊久を抑える。

 

「しかし叔父上!」

「豊久殿。お気持ち、良くわかりますぞ」

 

 すると、長宗我部盛親が口を開く。

 

「何もわざわざ敵の術中に嵌まることは無い! 赤坂夜襲のように攻めれば良いでは無いか! 今度は夜襲で決着をつけましょうぞ!」


 長宗我部や豊久の発言は、三郎にとっては予想がついていた。

 必ず、関ヶ原を決戦の地にすることに反対する者が現れると予想していた。


(やはり、こうなったか。あの時もそうだったしな……)

 

 三郎は赤坂夜襲の頃の事を思い出す。

 

(少し前の事だったが……あの頃が懐かしい。あの時は島津を参戦させるために赤坂夜襲をしたが……念の為、今回もそうするか)

 

 三郎はしばらく考えた後、口を開く。

 

「では、相手が第二次関ヶ原を起こそうとするのならば、我等は第二次赤坂夜襲をしましょう。されど、狙いは二つ。敵の手に落ちた大垣城も共に攻めましょう」

「おお! 分かってくれたか!」

 

 長宗我部は立ち上がる。

 

「先鋒は我等長宗我部に任せよ!」

「この島津も共に参りたい。よろしいか?」

 

 すると、義弘も口を開いた。

 更に、信康が続く。

 

「直政、忠勝。お主等はかの戦の折、夜襲を戦ったそうだな?」

「は。そこの島津殿と刃を交えましたな」

「ならば、この二人も共に行かせよう。三郎殿、よろしいか?」

 

 信康の言葉に、三郎は頷く。

 そして、しばらく考え、口を開く。

 

「では、赤坂夜襲の細かい策は島津殿に一任致しまする。そして、本軍は大垣を攻め落とす。東国無双、本多忠勝殿が赤坂へ行かれるので、西国無双、立場宗茂殿には大垣を落としてもらいたいのですが……」

「うむ、畏まった」

 

 三郎は頷く。

 

「では、各々方。赤坂夜襲で決着をつけるつもりでまいりましょうぞ!」

 

 しかし、言葉とは裏腹に、三郎はそこで終わるとは思っていなかった。

 いや、終わらせるつもりは無かった。

 

(……完膚なきまでに叩き潰さなくては意味が無い。相手がやれるだけのことをやったその上で叩き潰し、反乱の芽を潰す。織田の天下のために……俺が、信長である内に、すべき事はしなくては……)

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