第110話 第二次赤坂夜襲

「此度は釣り野伏せは出来ませぬ。岐阜城より西は敵に押さえられておりますからな。ここで戦の決着をつけることは叶いませぬぞ」

「……三郎殿。分かっておりまする。主な狙いは敵の士気を下げる事と、大垣城の奪還。我等は如何に数を減らせるか、ですな。無茶は致しませぬ故、ご安心を」

 

 島津義弘の答えに三郎は頷く。

 すると、義弘は少し笑う。

 

「先の戦と同じですな……」

「確かに、先の戦でも共に夜襲を仕掛けましたな……出来れば、あそこで決着をつけたかったのですが……」

「三郎殿、島津殿。されど、此度は我等もおりますぞ」

 

 すると、背後から井伊直政、そして本多忠勝と長宗我部盛親が現れる。

 直政は続ける。

 

「先の戦では彼の地で刃を交えましたな。島津殿がこれ程恐ろしい方だとは思いもしませんでした」

「我が長宗我部は赤坂を夜襲こそしておりませぬが、その後徳川勢を尽く蹴散らしたが……上手くは行かなかったな」

 

 すると、井伊直政は頷く。

 

「左様。島津殿の釣り野伏せは前々から耳にしておりましたからな。赤坂で島津の旗を見たときから警戒しておりました」

「まさか、儂自身が原因で策を見破られるとはな……」

「されど、叔父上。此度は釣り野伏せではありませぬ。このまま秀忠の首を取りましょうぞ!」

「……うむ。そうだな」

 

 義弘は頷く。

 そして、刀を抜き、敵へ向ける。

 

「かかれ! この義弘に続け!」

 

 その号令と同時に鉄砲が放たれる。

 

「突っ込め!」

「井伊の赤備えの力を見せつけよ!」

 

 そして、銃撃が止むと豊久と井伊直政が切り込む。

 

「我等も続くぞ! 我らの狙いは伊達政宗だ!」

「本多殿に続くぞ! この長宗我部盛親に続け!」

   

 すると、本多忠勝と長宗我部盛親は狙いを伊達政宗に定め、突撃する。

 突然の奇襲に、徳川方は浮足立つ。

 ……筈であった。

 

「放てぇ!」

 

 突撃した島津、井伊、本多、長宗我部は敵の激しい銃撃に合う。

 

「な、何事だ!? 何故これ程早く敵の反撃にあうのだ!?」

「長宗我部殿! 落ち着かれよ!」

 

 本多忠勝と長宗我部盛親は井伊、島津の後から突撃したので、被害は少なかった。

 しかし……

 

「ぐっ……」

「叔父上!」

「豊久殿! ここは引かれよ! 待ち伏せされておる! 義弘殿を連れて引くのだ!」

 

 義弘が、敵の銃弾を受けたのだった。

 

「豊久……儂に構うな……秀忠を討ち取れ……」

「叔父上! なりませぬ! ここは下がりましょうぞ!」

 

 しかし、義弘は引かない。

 

「ここで……秀忠を討つのだ……」

「叔父上!」

「かかれ!」

 

 すると、敵勢の横を三郎が攻撃する。

 

「っ! 今だ! 攻めよ!」

「豊久殿! 義弘殿を連れて引かれよ! 引きずってでも生かすのだ!」

「三郎殿! かたじけない!」

 

 三郎はどのような状況でも対応が可能なように後方に控えていた。

 島津勢は後退する。

 

「三郎殿! どうやら、我らの策は見透かされていたようにござる! ここは引きましょうぞ!」

「井伊様! 我等は明らかに劣勢! ここで無駄に兵を死なすわけには参りませぬ! 長宗我部殿と本多殿の部隊はまだ混乱しておられる! お二人がが引かれるまで、耐えまする!」

 

 

 

「やはり、来ましたな」

 

 天海は秀忠、そして政宗とともに奇襲する敵軍を見ていた。

 

「先の戦では痛い思いをした多くの者が口々にしており、警戒していて正解でしたな」

「しかし、こうも簡単にかかるとは……」

 

 政宗は口を開く。

 

「これで多くの敵を討ち取れましたな。士気も下がり、我等に優位に働くでしょう」

「申し上げます!」

 

 すると、伝令が駆け込んでくる。

 

「大垣が落ちたとのことにございます!」

「真か!?」

 

 秀忠の言葉に伝令は頷く。

 

「落ち着きなさいませ。その程度ならば想定の範囲内」

「天海殿の言う通り。この政宗に抜かりはありませぬ」

 

 秀忠は頷く。

 

「この戦、勝てますな」

「されど、油断は大敵」

 

 天海は続ける。

 

「勝つためには、油断は決してしない事。世の中、上手く行かない事だらけにございますからな」

 

 その天海の言葉は、何処か説得力のある言葉であった。

 決戦の行方は、未だわからない。

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