第129話 説得

「で、話とは何ですか? 信包殿」

「伊達殿と天海殿についてです」

 

 信包は政宗と天海の処刑を遅らせるべく淀殿に直談判していた。

 信包は織田家の中でも地位が高く、信長からも重宝されていた。

 それ故に淀殿も話を聞いていた。

 

「今すぐ首を刎ねるのでは無く、一度全国津々浦々に両名の罪状を知らしめて、引き回しの後に処刑、とするのは如何でしょうか」

「それは……何故ですか?」

 

 信包は真っ直ぐ淀殿を見つめながら話す。

 

「ただ処罰するのは簡単。されどそれでは足りませぬ。市中引き回しでその無様な姿を晒させるのです。豊臣に逆らうものはこうなると知らしめるのです」

「……わかりました。あなたがそこまで言うのなら、それが良いのでしょう」

 

 淀殿はため息をつく。

 

「……やっと敵がいなくなったのです……もうゆっくりしたい。仔細は任せます」

「は。三郎に市中引き回し等の処刑の手筈は行わせまする。京にて行わせようと考えておりまする」

 

 淀殿は頷いた。

 

「分かりました。三郎殿にしかと頼むと伝えて下さい」

「はは!」

 

 

 

「信包殿」

「これはこれは、北政所様」

 

 信包が三郎の下に伝えに行こうとした時、北政所に呼び止められる。

 

「三郎殿はどちらにおられるかわかりますか? 先程部屋を訪ねたのですが……」

「おられぬのですか?」

 

 北政所は頷く。

 

「急ぎですかな? 私も三郎に用が御座いまする。何でしたら、伝言をお預かりいたしますぞ」

「……そうですね……」

 

 北政所は少し考えた後、口を開いた。

 

「では、三郎殿に一つ忠告を」

「……忠告、ですか」

「はい。私はこれ以上の争乱は望みません、と」

 

 その北政所の言葉を聞き、信包は考える。

 三郎は北政所に策を話してはいない筈であったからだ。

 

(政宗殿の処遇について聞いたのか……それで独自に争乱の気配を感じ取ったか……さすがは北政所、だな)

 

 そして、信包は口を開く。

 

「……伝えておきまする。されど、そのような心配はいらぬかと思いまするが……」

「……そうでしょう。豊臣に敵対する勢力がいなくなったため今、争乱が起きるとは思えません。されど、伊達殿のあのような処遇、家臣の者達が不満に思うのは確実でしょう」

 

 北政所は続ける。

 信包はそれを静かに聞いていた。

 

「ここ一年であまりにも人が死にました。これ以上死人を増やす必要はありません。天下は今、豊臣の天下として落ち着いた。私はそう思ってます」

「……されど、秀頼公はまだ幼い」

 

 北政所の話を最後まで聞いた後、信包が口を開いた。

 

「だれかが変わりに取り仕切らねば、世は乱れましょう。五大老を設けても、関ヶ原の二の舞いになるだけ。ならば、信頼の置ける者に任せるのが一番にございまする。……その後、その者が天下を取ろうと画策するやもしれませぬが」

「……三郎殿の天下は、万民が幸せに暮らせる天下でしょうか……私は不安です」

「……左様ですか」

 

 信包は頭を下げる。

 

「なにはともあれ、三郎には伝えておきまする。では」

 

 信包はその場を去った。

 

「……三郎殿、頼みますよ」

 

 北政所は、不穏な気配を感じていた。

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