第130話 三郎、本能寺へ

「と、言うわけだ」

「……成る程、京にて処刑を……」

 

 三郎は信包から伊達政宗達の処罰、そして北政所の伝言について聞いていた。

 信包は津軽為信や伊達家臣達との話は伏せた上で三郎に話を通していた。

 

「……それは、織田家の為。ですかな?」

 

 三郎はしばらく考えた後、口を開く。

 信包は頷いた。

 

「無論だ。万事滞り無く進んでおる。お主は伊達政宗と天海を連れて京に行き市中引き回しと処刑の手はずを整えておいてくれ。儂もすぐに行く」

 

 三郎は頷く。

 

「分かりました。それで、いつ行われるのですか?」

「まだ細かな日程は決まっておらん。ただ、近日中というのは確かだ。いつでも行えるように準備しておいてくれ。わかったらすぐに知らせる」

「分かり申した」


 すると、三郎は思い出したかのように口を開く。


「そう言えば、南部利直は見つからぬのですか?」

「あぁ、探させてはいるのだがな。一向に見つからぬ」


 信包は全てが落ち着いた後、戦にて敗走し逃げ出した南部利直や石田家の残党を探させていた。

 しかし、手がかりはつかめず一向に捜索は進まずにいた。


「どこぞの寺にでも隠れているのか……それとも、あえて京のような町中に潜んでいるのやも知れぬな」

 

 すると、三郎は暫く静かになる。

 

「……京、そして寺か」

「……織田家にとっては中々因縁のある土地だな……そうだ三郎。伊達政宗らの処罰の折、ここは敢えてあそこに泊まるのはどうだ?」

「あそこ? まさか……」

 

 信包は頷く。

 

「左様。本能寺だ」

 

 本能寺。

 かつて織田信長が死んだ場所。

 そこに、信長の生まれ変わりである三郎を泊めようと言うのだった。

 信包は三郎が信長の生まれ変わりだとは知らない故の発言であった。

 

「本能寺……ですか」

 

 信長の知る本能寺は本能寺の変にて焼失しており、後に豊臣秀吉により移築させられた。

 

「左様。彼の地に泊まれば、お主の策にピッタリであろう?」

「……確かにそうですが……中々趣味が悪いですな」

 

 信包と三郎は笑い合う。

 

「面白いですな。そう致しましょう」

「うむ。我が兄、そしてお主の祖父、信長公の最期の地だ。京の町もまだ禄に見て回っておらぬであろう?しかと見てくるが良い」

 

 三郎は頷く。

 

「左様ですな。そう致しまする」

「うむ、ではな。しかと策を遂行するのだぞ」

 

 そのまま信包は部屋を後にする。

 三郎は信包が去ったのを確認する。

 

「京、か……」

 

 三郎は独り言を呟く。

 

「本能寺……」

 

 そして、笑みをこぼした。

 

「俺の……信長の最後にピッタリだな」

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