第107話 中山道大返し

 岐阜前哨戦開戦の数日前。

 三郎達はいかにして岐阜へ戻るかを話し合っていた。


「しかし、どうしますかな。ここ上田は最前線。留守には出来ませぬぞ」

 

 真田昌幸の言葉に、三郎は頷く

 

「そうですな。……足の遅いものや、負傷した者達で上田を守り、その他全軍で西へ向かいましょう」

「しかし、かなりの時がかかりますぞ」

 

 三郎の言葉に有楽斎が返す。

 

「そこは、考えがありまする。昌幸殿」

「何かな?」

「馬は、どれほどありますかな?」

 

 その三郎の問いに、昌幸は気付き、笑う。

 

「成る程……」

「……どういう事ですかな?」

 

 しかし、信康や他の諸将は分からなかったようだった。

 

「過去、歴史上。僅かな日数でかなりの距離を進み、敵軍を倒した事例がありまする」

「……まさか!」

 

 その三郎の言葉に、信雄は気づく。

 そして、それに続き、立花宗茂や島津義弘も気がついた。

 

「大返し、か」

「流石は立花殿。左様にござる」

「しかし、可能なのか?」

 

 島津義弘の問いに三郎は頷く。

 

「かつて太閤殿下は先々に手を回し、道中給水や食料等の手はずを整え、強行軍の手筈を整えておりました。さらに、かの鎮守府大将軍、北畠顕家卿は現地の特産である南部馬を使い、太閤殿下よりも速い速度で、より長い距離の行軍を成し遂げました。……そしてこの辺り、甲斐、信濃は同じく馬の産地にございます」

 

 そして、昌幸が最初の三郎の問いに答える。

 

「確認を取らせた所、大返しに必要な馬は十分にありまする。今早馬を飛ばし、道中に変えの馬と飯や松明など、手筈を整えるように伝えました」

「ありがとうございまする。流石は昌幸殿。手が早いですな」


 すると、昌幸が切り出す。


「さて、この上田城は息子達に……」

「父上。お待ちを」


 すると、信之と信繁が軍議の場に顔を出す。


「此度の戦、この信繁に行かせて下され」

「この信之も同じ想いにございます」

「お前ら……」


 二人のその申し出に、暫く昌幸は考える。

 そして、答える。


「この上田城はこの昌幸にお任せ下され」

「父上……ありがとうございまする」


 信繁と信之は頭を下げる。


「お二人共、頼りにしております」

「では、早速兵に支度をさせましょうぞ。時は一刻を争いますからな!」

 

 徳川信康はすぐに動き出す。

 そして、三郎も立ち上がる。

 

「では、各々方! 一刻も早く岐阜へ参りましょうぞ!」

 

 

 

 そして僅か七日後。

 中山道の豊臣方、約四万は犬山城に到達。

 その後、犬山城を包囲する動きをする。

 

「……流石に戦はさせられんな」

「ですな。しかし、間に合って良かった。想像以上に支度に手間がかかりましたからな」

 

 三郎と秀則は犬山城を見据える。

 

「ん?」

 

 すると、犬山城に動きがあった。

 犬山城から煙が上がったのだ。


「逃げた、か」


 最上義光は城に火を放ち、犬山城を脱した。

 

「三郎殿!」

 

 すると、三郎達の陣に島津豊久と細川忠興が入ってくる。

 

「おお! 豊久殿! 忠興殿! お久しぶりですな!」

 

 豊久と忠興の両名は最上、津軽勢の激しい抵抗にあい、一旦兵を引いていた。

 その疲弊から、最上勢の追撃はしていなかった。

 

「三郎殿……これは……」

「忠興殿、かなり急でしたが、これは大返しにございます。中々大変でしたが、何とか上手く行きました」

 

 その言葉に忠興は笑う。

 

「流石は三郎殿。やはり、こちらについて正解でしたな」

「ありがとうございまする。なにはともあれ、これでここの戦は勝ったも同然。次は、どう動きましょうかな」

 

 三郎の大返しにより、戦況は大きく豊臣方に傾いた。

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