第37話 大阪入城

 数日後。

 佐和山裁定の結果が大阪へと伝えられ、西軍諸将は大阪入城を許可された。

 わだかまりを残しつつ。

 

「ようこそおいでくださった。さ、こちらへ。」

 

 片桐且元に出迎えられ、城内に案内される。

 案内された場は、秀頼に謁見する間であった。

 案内された間に座り、秀頼の登場を待つ。

 すると、秀頼が淀殿に連れられ、現れた。

 

「皆の者。面を上げよ。」

 

 淀殿の言葉で面を上げる。

 

「皆の者。ご苦労であった。佐和山裁定の結果は耳にしています。徳川家康も討ち取ったと。」

 

 淀殿は織田秀信に近寄る。

 

「家康を討ち取ったのは、あなたの弟だそうですね。」

「は。」

「そして、三成殿を討ち取ったのはあなた。」

「……は。」

 

 淀殿の母は信長の妹、お市である。

 つまり、この二人は親戚である。

 この場に三郎がいたらどうなったであろうかと、秀信は思った。

 

「……決まった事に異を唱えるつもりはありません。ですが、あなたの事を心の底から信頼することは無いでしょう。」

「……は。」

 

 淀殿は今度は宇喜多秀家に話しかける。

 

「宇喜多殿。此度の戦で活躍なされたあなたが今後の豊臣家を導いていくのです。秀頼の事を支えて下さいね。」

「は!」

 

 秀家は深く頭を下げる。

 

「佐和山裁定で決まったことは既に全国の諸大名に伝える手筈はできております。後の事は任せましたよ。」

「は!お任せ下さい!」

 

 そう言うと淀殿は秀頼と共にその場を後にした。

 

「さて、各々方。」

 

 秀家は皆の方へ向き直る。

 淀殿から直々に後を託されたとして、自信を持てたのだろう。

 

「まだまだ至る所で戦は続いております。裁定の結果に不満を持つ者は抵抗を続けるやもしれませぬ。戦支度は解かぬよう。」

「……それだけてすかな?」

 

 島津豊久が口を開く。

 東海道から江戸へ向かった義弘の代わりとして豊久が残ったのだった。


「加増について、話が纏まってはおらぬが。我等島津は九州の南半分は欲しい。」

「そうじゃな。長宗我部も四国を望むぞ。」

 

 それらの唐突な物言いに秀家は慌てる。

 

「ま、まぁまぁ。そんな急いで決めなくても……。」

「そんな事を言って、有耶無耶にするつもりであろう!」

 

 秀家のその態度に長宗我部盛親が怒る。

 

「それらについては、他の方々の所領の問題もある。おいそれと簡単に決めるわけには行かぬのだ!」

「宇喜多殿の言い分。ご尤も。」

 

 すると、小早川秀秋が口を開く。

 が、秀家は驚いていた。

 まさか味方するとは思っていなかったのである。

 

「ここで勢いで所領を決めては、第二の徳川家康を生み出し、また大きな戦になりかねまする。ここは他の戦が落ち着いてから、今も続く抵抗を鎮め、それらの功績も含めて話し合いませぬか?それに……。」

「それに?」

 

 秀秋の言葉に盛親が聞き返す。

 

「あまり大声では言えませぬが、その抵抗を鎮圧すれば望む所領も手に入りやすくなりまするぞ。未だ抵抗する徳川方を討ち滅ぼし、手柄といたしましょうぞ。未だ抵抗を続ける奴らを利用して、望む所領を手に入れるのです。」

「ふ、面白い。」

 

 すると、島津豊久は立ち上がった。

 

「ならば、ゆっくりはしていられんな!いつでも動けるように準備しておこう!」

「そうじゃな!裁定の結果を伝える書状で反発するものがおるやもしれん!備えは万全にしておくぞ!」

 

 そう言うと二人はその場をでていった。

 

(小早川殿の動きで後半、完全に宇喜多殿の存在を無視していたな。これも三郎の入れ知恵か?宇喜多殿の存在がどんどんと薄くなっていくな……。)

 

 秀信の想像の通り、三郎の入れ知恵で小早川は動いていた。

 これで宇喜多と小早川の対立構造が生まれ、次は小早川対宇喜多となる。

 それを見越し、有力な者達の心を掴むように三郎は指示をしていた。

 三郎は宇喜多に狙いを定め、その権力を削ぐことに注力していく。

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