第36話 家康の首

 佐和山裁定より数日後。

 三郎は家康を討ち取り、急ぎ佐和山へ戻っていた。

 そして、それと時を同じくして、家康の影武者が暴かれていた。

 

「これは……徳川家康ではないではないか!立花殿!お主のことを信用して確認していなかったというのに……どうするつもりだ!」

「……真に申し訳無い。」

 

 佐和山城にて、立花宗茂は宇喜多秀家に問い詰められていた。

 宗茂は深く頭を下げた。

 

「宇喜多殿。今はそれよりも本物の徳川家康を探すべきでは無いか?」

「……そうだな。長宗我部殿の言う通りだ。」

 

 秀家は刀を抜く。

 そして、偽物の徳川家康。

 つまりは本多忠勝に刀を向ける。

 

「答えてもらおうか。本多殿。家康は何処におる!?」

「……知らぬ。」

 

 本多忠勝は腕を縛られ、身動きが取れない状況てあった。

 

「宇喜多殿。本多忠勝殿は忠義に厚いお方。いくら問い詰めようが、無駄でしょう。」

「小西殿……。」

 

 小西行長の言葉を聞き、宇喜多秀家は刀を納めた。

 

「では、この状況をどうするおつもりかな?小早川殿。」

「……。」

 

 小早川秀秋は宇喜多秀家が完全にこちらを敵視していることに気が付いていた。

 いつもならば宇喜多秀家は金吾と呼ぶからである。

 言葉の端々から、怒りが感じ取れる。

 

「……すぐさま追討軍を編成すべきでは?」

「それでは遅すぎる!それでは他の徳川方の将と共に江戸へ逃げられてしまうわ!」

 

 評定の場に沈黙が流れる。

 すると、織田秀信が口を開いた。

 

「では、今現在岐阜城を取り返すために進軍しているはずの真田殿に使いを送られては如何か?それならば今から編成するよりも早いでしょう。」

「……儂も織田殿の意見に賛成だ。」

 

 長宗我部がそう言うと長束正家も頷いた。

 

「それが良いであろう。宇喜多殿。早速使いを。」

「……うむ。」

 

 小西行長の言葉に宇喜多秀家は頷く。

 すると、評定の場に慌ただしく駆け込んでくる男の姿があった。

 

「待たれよ!」

「誰だ!無礼であるぞ!」

 

 突如として現れた男に長宗我部が怒鳴る。

 が、姿を見て、態度を改めた。

 

「おお、これは三郎殿。そんな慌てて如何なされた。」

「はっ!虎助。」

「はっ!」

 

 三郎が後ろに向けて声をかけると男が袋を抱えて入ってくる。

 

「これを。徳川家康の首にございます。」

 

 三郎がそう言い、袋を差し出す。

 

「徳川家康の首をだと!?」

 

 宇喜多秀家はその言葉に驚き、袋を受け取り、開ける。

 その中身は確かに徳川家康の首であった。

 

「……殿!」


 家康の首を見て、本多忠勝は狼狽える。


「これは……どういう事だ!?」

「は。我が兄、織田秀則と、真田殿率いる軍が岐阜城を奪還。その際に密かに岐阜城に逃げていた徳川家康を捕えたとの事に御座います。」

「……しかし、何故死んでおる。」

 

 秀家の質問で、皆が三郎の言葉に耳を傾ける。

 しかしその中、事情を理解している秀信は落ち着いていた。

 

「佐和山へ護送中、徳川家康は逃走を図り、一時は見失いました。が、すぐに見つけ出しました。しかし、最早これまでと刀を抜き、自害致した。」

「……それはおかしくは無いか?」

 

 それまで沈黙を守っていた島津義弘が口を開く。

 

「何故刀を持っていた?罪人が刀を持つなど聞いたことが無い。」

「……それは……。」

「我が弟、秀則は未熟ながらも常に人の為にと生きておりました。徳川内府殿に刀は武士の魂だ、とでもいわれれば周りの反対を押し切ってでも相手の言い分を通すでしょう。」

 

 秀信が助け舟を出す。

 

「虎助。そうだったのか?」

「……え?……あ、えぇ!はい!大体、その通りにございます!」

 

 現場にいた事になっている虎助がそう言った事で場は纏まった。

 

「では、後は秀忠ですな。我等島津も真田殿とは別の経路……東海道の方面から秀忠を探そうと思いまする。よいかな、秀秋殿。」

「……では、頼む。」

 

 すると、島津義弘は軽く頭を下げ、その場を後にした。

 

「立花も島津殿とご一緒したい。この失態を償わせては頂けぬか?」

「うむ。頼んだ。」

 

 秀秋は頷いた。

 宗茂が立ち上がり、その場を去ろうとする。

 

「……立花様。」

 

 その場を後にしようと三郎の隣を歩く宗茂に三郎が口を開く。

 

「……何かな?」

「福島殿が清須を治めておられます。ご助力願えるかもしれませぬ。お声をかけてみては?」

「……頭の隅にでもとどめておこう。」

 

 立花宗茂はそのままその場を後にした。

 福島正則は一度でも太閤殿下に背いた事は変わらぬと、佐和山裁定のあと清須へ帰っていた。

 

「では、各々、大阪へ参るまで、ごゆるりとなされよ。。」

 

 小早川秀秋が去ると皆が去っていった。

 最後まで宇喜多秀家が残っていたが、すぐに去った。

 

「宇喜多も、信用を落としたな。」

「三郎。ご苦労であった。」

 

 すると、秀信が話しかけてくる。

 

「いや、これは俺がやらなければならなかった事だ。それに、さっきも助かった。」

 

 そう言うと、秀信は笑った。

 

「それくらいはさせてくれ。」

「……そうだな。皆で、家族で協力していこう。」

 

 家康は死に、残るは秀忠。

 秀忠に対しても追討軍が編成され、徳川家は滅亡の危機に瀕していた。

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