第27話 大一大万大吉

「何故、何故小早川殿が寝返った!?もはや我等が優勢、寝返る理由がどこにも無いではないか!」

 

 小早川の突然の寝返りに、三成は慌てる。

 

「殿!既にすぐそこまで小早川、織田勢が来ております!」

「くっ!もはや友軍の元へ行こうとも間に合わん!かと言ってここで逃げるのもあり得ぬ。迎え撃つぞ!友軍が到着するまで持ちこたえよ!」

 

 三成は眼前に迫る敵の大軍を見る。


「織田殿……何故だ。」

「殿!書状に御座います!」

 

 三成は伝令から書状を受け取る。

 その伝令の甲冑は汚れ、肩には矢が刺さっていた。


「……誰からだ!?」

「……大谷吉継様からに御座います!」

 

 

 

「秀信兄上!」

「三郎、ご苦労であった!」

 

 小早川の陣を離れ、秀信の陣へと戻る。

 

「聞きましたぞ。叔父上達がご協力してくださるそうですな。」

「あぁ。既に信吉叔父上が木造と共に先陣を切っておる。頼もしい限りだ。」

 

 眼前に迫る三成の旗印。

 

「……三成に、過ぎたるものが二つあり。」

「島の左近と佐和山の城、か。いきなりどうした?」

 

 思わず笑みがこぼれてしまう。

 

「もう一つありました。」

「ほう?」

「天下、です。」

 

 その発言に秀信は笑う。

 

「成る程!確かにそれは言えておる。まぁ、小早川にも過ぎたるものであろうがな。」

「ですがあぁ言えば動くと思いました。案の定でしたね。」

 

 そこであることに気が付く。

 

「そう言えば秀則は何処に?」

「……あやつは大垣へ向かわせた。」

「大垣?」

「あぁ、万が一の備えだ。」

 

 万が一。

 家康を取り逃した場合、我々が敗北した場合。

 織田家の血脈を守る為、か。

 

「分かった。良き判断だったと思う。」

「うむ。」

「ご報告申し上げます!」

 

 三成本陣へ迫る途中、伝令が駆け込んでくる。

 

「先陣、木造長政様、織田信吉様、石田勢とぶつかりました!続いて織田長次様も仕掛けました!」

「いよいよか。行くぞ、三郎!」

「あぁ!」

「も、もう一つ……。」


 伝令がまだ何か言おうとしている。


「どうした。」

「石田三成、自ら刀を振るい、陣頭指揮を取っております!」


 

 

「逆賊三成!覚悟!」

 

 雑兵の槍が繰り出される。

 三成はそれを掴み、敵兵を切る。

 

「皆の物!天下を取らんと企む織田に大義は無い!奮起せよ!」

 

 三成の本軍の士気は高く、織田勢は押し返されつつあった。

 三成の陣頭指揮もあるが、三成に付き従う者達は皆豊臣の為に戦う忠義者。

 天下を簒奪せんとする織田の好きにはさせまいと、皆が奮い立っているのだった。

 

「刑部。お主の最後の文、役に立っているぞ。」

 

 大谷吉継からの文には織田秀信が天下への野心を露わにしていると書かれていた。

 吉継は死の間際、近くに伝令を潜ませ、織田の本当の狙いを聞き出し、伝令にそれを三成に伝えさせたのだった。

 

「石田三成!」

「っ!あれは、織田秀信……それに三郎か!」

 

 三成が最前線で指揮を取っていると聞き、三郎達もすぐさま向かった。

 

「三成は天下を我が物にしようとした大罪人だ!生かしておくな!討ち取れ!」

「行くぞ!この木造長政に続け!」

「ええい!この信吉に続け!遅れを取るな!」

 

 秀信が指示を出すと、兵達は信吉、木造に率いられ石田勢と戦う。

 

「秀信、三成は俺がやる。」

「うむ、気を付けてな。」

 

 すると、三郎が前へと出てくる。

 

「はあっ!」

 

 それを討ち取ろうと三成の兵が刀を振り下ろすが、軽く躱し、打ち合いするまでもなく、返り討ちに合う。

 

「……石田三成、お主にはここで死んでもらわねばならん。」

「太閤殿下への恩を忘れたか。織田家は太閤殿下のお陰で生きながらえたのだぞ!」

「そもそもその太閤とやらは!織田家がなければあり得なかった!天下の簒奪者は豊臣だ!」

 

 三郎が叫ぶ。

 その言葉に石田勢は士気が落ち、織田勢は士気が上がった。

 

「……確かに……。」

「そう言われれば、返す言葉が……。」

「三郎殿の言う通りだ!」

「豊臣を許すな!」

 

 戦況は石田勢の劣勢となりつつあった。

 義に厚い石田の兵だからこそ、揺さぶられやすく、士気が落ちてしまった。

 

「……だからといってこのまま見過ごす訳には行かん!三郎!覚悟!」

 

 石田三成が仕掛ける。

 が、三郎は軽くそれをいなし、三成の左腕を斬りつける。

 

「ぐっ!」

「俺は未来で色々な流派の居合を習ってきた。そう簡単には負けん。」

「くそっ!」

 

 三成は片腕で三郎に斬りかかる。

 が、今度は右手の篭手を斬り付けられ、三成は刀を落としてしまう。

 

「……秀頼公のお命だけは、助けてくれ。」

「相分かった。」

 

 三成は膝を付き、頭を下げる。

 首を切れという事だ。

 

「豊臣への忠義、見事であった。」

 

 刀を振り下ろす。


 石田三成。

 豊臣への忠義を貫いた男。

 享年四十であった。

 この男に天下への野心は無く、ただひたすらに太閤秀吉への恩を返すため生きていた、忠義の士である。

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