第137話 整い始める軍備

「殿! 良くぞこ無事で!」

「おお! 成実、景綱! 良くやってくれた!」

 

 伊達政宗は津軽為信と分かれて一人大阪へと入った。

 津軽為信は東へと向かい、近江を抑えに入っていた。

 政宗は大阪にて勝利の為の策を講じる事となる。

 

「しかし、秀頼と淀殿は……」

「良い。過ぎた事だ。策に嵌められたとは言え、大阪を抑えられたのは大きい」

 

 すると、政宗はすぐさま指示を飛ばす。

 

「成実。さっそくだが蔵を見てくる。ついて参れ」

「は!」

 

 伊達政宗は大阪城の蔵へと足を運ぶ。

 そして、その中の財産を目の当たりにする。

 

「……うむ。これだけあれば……」

「殿? 一体何を……」

「支配下の町全てへ触れ回れ! 天下を望むものはこの大阪城へ集まれと! 集ったものには大阪城の財産を分け与えるとな!」

 

 伊達政宗はこの方法で兵を集めようとしていた。

 それが、政宗の戦に勝つ策であった。

 実際、大阪城の蔵には大量の金銀財宝があり、多くの浪人を抱えるには充分であった。

 

「は! 直ぐに!」

 

 成実はすぐに動き出す。

 この策が、如何に速度が重要かを理解しているからだ。

 

「……一体どれ程の兵が集まるのか……それ次第だな」

 

 

 

「津軽様。近江はほぼ抑えましたが、次はどうなさるおつもりで?」

 

 近江へと兵を進めた津軽為信は側近に聞かれる。

 

「うむ、今は敵の主力が東へ赴いているからこそここまで来れたが、じきに我らの動きも知れ渡る。その為には守りを固めることこそ寛容よ」

 

 津軽為信は文を取り出す。

 

「伊達殿からの文だ。大阪城の宝物庫を全て開け放ち、全国津々浦々の浪人をかき集めるつもりでいるらしい」

「では……」

 

 為信は頷く。

 

「うむ、守りを固める。近江でも浪人を受け入れ、兵を増やし東から来るであろう敵の大軍の足止めとする。徳川方の将兵で逃げ回っている者も居る。我らにつけばお咎め無しだと言ってやれば集まる筈だ」

「そして、その間に大阪にて兵を蓄え決戦の支度をする、と」

 

 側近の言葉を為信は肯定する。

 

「あぁ、我らが如何に兵を集め、如何に時を稼げるかがこの戦の勝敗を分けるのだ」

「決戦は……野戦にございますか?」

 

 為信は答えない。

 暫く考えた後、口を開く。

 

「そればかりは分からぬ。兵が集まらぬか、敵が早く来たならば大阪城にて籠城戦となるであろう。だが、政宗殿は野戦を選ぼうとするだろうな」

「堅牢な大阪城にて籠城戦となれば、敵もそう簡単には攻め落とせますまい。何故、野戦だと?」

「……奥州が、我等の故郷が未だに戦っておる。我等が東へ兵を向ければ奥州に残る者等も士気が上がり、敵の背後をつくなどの策を講ずる事が出来る。つまり、勝機が出る。籠城戦……持久戦となれば不利なのは我ら」

 

 すると、側近は気が付く。

 

「成る程……大阪の備蓄の兵糧と敵の兵糧を比べては、我らの方が明らかに不足している……野戦で早々に決着をつけたいと……」

 

 為信は頷く。

 

「うむ。そういう事だ。我らの動きで勝敗は決まるのだ。我らの天下のため、励まねばな」

 

 着々と軍事は整い始めていた。

 しかしこの時、為信はまだ秀信達の大返しを知らない。

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