第11話 東軍総大将、赤坂に着陣す
「犬山が落ちたそうに御座います。」
「そうか……。」
百々の報告を受け取る。
東軍の調略により、犬山城は開城したという。
「まぁ、致し方あるまい。それに、然程大局に影響は無いだろう。」
「まぁ、三郎がそういうのならばそうなのだろうな。」
「しかし……未だに信じられませぬな。」
百々の報告を受けたが、どこか百々は落ち着かない様子だ。
「如何した?」
「いえ、三郎殿が……その……信長公であるというのが……。」
「あぁ、儂も未だにな……。」
木造と百々、織田家の重臣である二人にはその説明をした。
俺が信忠の隠し子であるという設定ならば、この二人には知っておいてもらった。
そして、秀信の弟、秀則にも知らせておいた。
「まぁ、そういう事で今後とも宜しく頼む。言葉遣いもそういう事で。」
「ははっ!……いえ、わかり申した。」
すると、秀則がこちらに正対する。
「では、三郎。いつか色々とお話をお聞かせ下さい。桶狭間や長篠等、聞きたい話は山程あります。」
「勿論です、兄上。」
秀則は設定上は兄ということになる。
そういう事で話をしよう。
「そういえば、東軍が赤坂まで進軍したそうですな。家康も江戸を出たそうにございます。」
「左様か……。」
そういえば、本来は東軍が岐阜城陥落の二日後、大垣城は東軍八万の大軍に包囲される筈だったが、それはなかった。
歴史は変わっているようだ。
「まぁ、暫くは何もない筈。皆も英気を養うと良い。」
「はっ!」
「と、殿!」
「どうした!?」
数日後、百々が居室に駆け込んでくる。
「家康が、家康が赤坂に!」
「何だと!?数日前に江戸を出たと聞いたばかりだぞ!」
家康は瞬く間に進軍し、赤坂に着陣した。
よくよく考えてみれば、この時代情報の伝達速度は非常に遅い。
家康が江戸を出たと数日前に聞いたということはその時には既に岡崎辺りまでは来ていたのかもしれない。
油断していた。
「殿、三成様がお呼びです!軍議をすると仰せに御座います。」
「相わかった。すぐに参ろう。」
木造の報告を聞き秀信はすぐに立ち上がり、部屋を後にしようとする。
「秀信。」
「どうした、三郎?」
恐らく、史実通りならば展開は予想が付く。
「良いか、この軍議で、このように進言するんだ。」
「おお、中納言殿、お待ちしておりましたぞ!」
「宇喜多様!お久しゅう御座る!」
軍議の場に赴くと、歴歴たる西軍の将がいた。
まず、宇喜多秀家が声を上げた。
戦国三大梟雄の一人に数えられる宇喜多直家の子であり、豊臣五大老が一人。
西軍の主力の一人である。
「織田中納言殿でござるか。儂は島津義弘と申す。」
「これは、宜しくお頼み申しまする。」
秀信は宇喜多秀家とはあったことがあるようだ。
「さ、中納言殿。お座り下され。三郎殿も。」
「かたじけない。石田殿も大変ですな。」
石田三成はこの戦に勝つために色々な手を尽くしてきている。
既に大谷吉継や毛利勢は関ヶ原に着陣している筈だ。
「いえ、それ程でもありませぬ。……さて、早速ですが家康が赤坂に着陣致した。各々の意見をお聞かせ願いたい。」
「よろしいか。」
島津義弘が手を挙げる。
「島津殿。」
「夜襲が宜しいかと。徳川家康はまだ着陣したばかり。兵達も疲れ、まだ後続の部隊はついておらぬ様子。攻めるなら今ですな。」
「成る程、流石は島津殿だ。この宇喜多秀家も賛同致す。」
三成はしばらく考えた。
「それも中々に良き案かと思いまする。が、南宮山に毛利殿ら初めとした諸将が集っておりまする。更にその西、関ヶ原には大谷吉継殿や小早川秀秋殿等が到着なされております。ここで決着をつけるというのは……。」
「よろしいか。」
すると、秀信が手をあげた。
「私も夜襲の策に賛同致す。そして、石田殿の案にも賛同致す。」
「……どういう事ですかな?」
「何やら、小早川殿に怪しい動きがあるとか。関ヶ原で雌雄を決するのはいささか危険では無いかと。されど、ここで夜襲し、ある程度敵兵を削っておけば関ヶ原において優位に立てまする。それならば、小早川殿も簡単には動けぬでしょう。それに……。」
秀信は机上の地図にある碁石を動かす。
「夜襲が失敗したと見せかけ、敗走を装い、ここ、南宮山に布陣している友軍の元まで引き付けまする。そして、頃合いを見て南宮山の友軍に横から突いてもらいまする。さすれば、敵を更に削れましょう。」
「……成る程。お見事!」
すると、三成の隣に立っていた男が立ち上がった。
「これは失礼、某、石田様にお仕えする島左近と申しまする。更に失礼して……。」
島左近は地図の上に置かれている秀信が動かした碁石を更に動かす。
「夜襲を仕掛けるのは少数精鋭、そうでな……島津殿らが最適でありましょうか。そして、ここ大垣城に主力を置いておきまする。織田様の先程の策の通り、敵兵を南宮山の麓まで誘導致す。そこで、機を見て大垣城から打って出る。これで三方を囲めまする。」
「おぉ!」
その盤面を見ていた小西行長が声を上げた。
「この策ならば関ヶ原まで持って行かずとも勝てるぞ!我々が敵方に痛手を与えたとあれば我等に寝返る者も出てくるやもしれぬ!」
「……では、そういたそう。」
三成は立ち上がると声を上げた。
「では、これより陣立てを考えましょうぞ。」
これで大体思惑通り。
それにしても流石は島左近。
石田三成の右腕ともいわれる存在だ。
確かにその策ならば、ここで勝てるかもしれない。
ここが、歴史を変えられるかどうかの正念場だな。
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