第71話 味方に引き込む為の策
「さて、あれから数日が立つが……」
「音沙汰無い、な」
三郎達は岐阜に戻ってきていた。
そして、信康に対する策を講じていた。
「……このままでは江戸が落ち着いてしまうぞ。三郎、どうする?」
「……どうしたものかな」
流石に三郎も策が思い浮かんでいなかった。
信康については忠勝と直政が側に付き、説得を続けている。
勘助も側におり、直政の治療をしながら状況を報告、そして説得もしてもらっていた。
すると、見かねた如水が口を開く。
「……ここは、織田家は過去の遺恨を気にしない、という話を作る必要がありまするな」
「如水殿。どうするのですか?」
如水の言葉に、秀信が口を開く。
秀信は勘助と如水の関係性に最初こそ戸惑っていた物の、今では慣れた様子であった。
「……織田家を裏切り、豊臣に付いたと認識している元織田家の家臣や、信長公の娘を妻として迎えている者達等、織田家と関わりこそ深いが、今更織田家と近づくと言うのは心が引ける。そう思っている者も少なくは無いでしょう。その者達の心を不安を取り除けば、信康殿はおろか、多くの諸大名が我らに靡くでしょうな」
如水は説明を続ける。
「ここは、今後多くの味方を引き込むために、過去の遺恨をすべて消し去るが宜しいかと」
「……しかし、どうやって?」
「三郎殿は……まだご結婚なされておりませぬな?」
その言葉に三郎は反応する。
「まさか? 嫁を取れと?」
如水は頷く。
「……しかし、誰にする?遺恨のある相手か……」
秀信は考える。
が、思い当たる節は無いようだった。
「……先の戦にて栗山善助に傷を負わせた将がおりましたな……名は確か……稲葉正成。彼の者は死しておりますが、あの者の妻は……」
「……待て!俺は良いとは言ってないぞ!」
三郎は慌てて如水を止める。
三郎はそれが誰か知っていた。
「こっちはな、感覚が未来なんだ。この歳で結婚は早すぎるんだ。高校生が未亡人を嫁にだぞ? それに、稲葉正成の妻は……」
「明智光秀の家臣、斎藤利三の娘だな」
秀信が答えた。
「そうだ。だから尚更気が引ける!」
「高校生と言うのは分かりませぬが……織田の天下の為に、手段は選んでられないと思いますが?」
如水にそう言われると三郎は黙ってしまう。
言い返せなかった。
「……秀信様。縁談の支度はこの如水が致しましょう。向こうが応じてくれるか分かりませぬが、必ずや成功させて見せましょう」
「如水殿。ありがとうございまする。では私は三郎がかつて信長公を討った、明智光秀の家臣の娘と結婚するという噂を流しておきましょう。これほどの話、すぐに広まるでしょうな」
三郎が全く話に参加しないまま、話は進んだ。
気が付けば、話はトントン拍子に進み、斎藤利三の娘、春日局こと斎藤福が岐阜に訪れることとなった。
「……気が進まん」
祝言に向けて支度を整える三郎と、共に支度を整える百々綱家が口を開いた。
「複雑な心情察しまする。ですが、良くぞご決心下さった! この百々綱家、嬉しい限りですぞ!」
「……やはり、無理だ」
三郎は不意に立ち上がる。
「やはり祝言は無しだ!気分転換に行ってくる!」
「三郎殿!? やはり、信長様だな……」
三郎はそのまま駆け出し、城を抜け出した。
祝言の衣装に着替える前だったので、目立つことは無いだろうとそのまま城下町を散策した。
久々の穏やかな城下町を、三郎は楽しんでいた。
「未来人の影響なのか……望まぬ結婚は心の底から嫌になるな……この時代ならば普通なのだが……」
考えながら城下町を歩いていると、何やら騒がしい様子の場所があった。
「……若い頃は随分とヤンチャしたからな……よし! たまには良いだろう!」
三郎は走り出し、その騒ぎへ首を突っ込む。
「おい、何があったんだ?」
「お? 見ない顔だな? まぁいいや。あそこにすげぇ美人がいるんだよ!」
町民の視線の先には確かにものすごい美人が居た。
茶を、飲んでいた。
(確かに、凄い美人だ。着ているものもそれなりに立派。一つ一つの所作がきちんとしている……庶民では無い……か)
三郎は目立つのを嫌い、質素な物を着ていた。
それ故、目立つことは無かった。
「おい、ちょっといいかい?」
すると、一人の男がその女性に声をかけた。
「おお! 大介のやつ! 行きやがった!」
「大介?」
「知らんのか?ここらの若い奴らを纏めてる奴だよ」
大介はその女性の肩に手を置く。
「なぁ、ちょっとさ……」
「……触るな!」
その女は勢い良く、大介の手をはたき落とす。
「汚いその手で触るな。私は今非常に苛立っているのです。近づかないで下さい」
「こ、このぉ!」
大介は刀を抜き、振りかざす。
(まずい!)
三郎は咄嗟に出て刀を押さえ、それと同時に鳩尾に一発入れた。
「かはっ!」
そして、大介は腹を抱えて倒れる。
その瞬間、歓声が起こった。
「……これは、まずいな、目立ちたくは無かったんだけど……」
「……ちょっと」
気が付けば、三郎は女性に手を掴まれていた。
「目立ちたくは無いと申されましたね? 私もあまり目立ちたくは無いのです。逃げますよ」
「え?あ、あぁ!」
そのまま女性に手を引かれながら、その場を離脱した。
人気の無い所まで来た所で、二人は顔を合わせた。
「……私、少し前に夫を失ったばかりだと言うのに、もう結婚させられるんです。それが嫌で逃げてきました」
「……成る程。自分も、望まぬ相手と結婚させられる所で……逃げてきた所です」
三郎がそう言うと、女性は笑った。
「ふふ、そうだったんですか。こんな偶然もあるのですね」
「ええ、本当に」
すると、女性は一呼吸ついてから、軽く頭を下げた。
「自己紹介がまだでした。私は斎藤福と申します」
「……え?」
その名前を聞き、三郎は固まる。
そして、その様子を不思議に思った福もすかさず聞き返す。
「……名前をお聞きしても?」
「……織田、三郎……です……」
その名前を聞き、福も固まる。
暫くの沈黙が二人の間に流れた。
そして、その様子を見届ける人物が、二人居た。
「……順調、順調」
「……中々面倒な事をするな、勘助」
勘助と如水である。
「俺と同じならば、政略結婚は嫌なはず。高校生で歳上の未亡人なんて属性だらけだろ? そういう趣味でも無い限り、嫌なはずだ。ならば、漫画のような出会いをさせてやれば良い。互いに好きになれば問題は無い」
「……漫画?……属性?……まぁ、未来の話は分からんが、全ては思い通りに行ったな……大介とやらには、褒美をやらねばな」
勘助と如水の策により、二人は巡り合った。
果たして、最高の出会いか、最悪の出会いか。
それはまだわからなかった。
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