第70話 岡崎三郎
「ここが、そうか。」
三郎達は岡崎三郎こと徳川信康が潜伏しているという家を訪れていた。
「……お約束は守ってもらいますぞ。」
「我等は決して織田に屈してはおらぬ。秀忠様や秀康様、現在の徳川家の対応についてもお忘れなく。」
本多忠勝と井伊直政を引き連れて、三郎と秀信は家を訪ねた。
それに、如水と勘助も付いてきていた。
人選は最適であった。
「……どちら様で?」
すると、使用人のような男が顔を出した。
「ここに、岡崎三郎殿がおられるとお聞きした。お会いしたいのだが」
「……お引取りを。」
すると、本多忠勝が使用人を押しのけて家に入る。
「何をする!?」
「信康様!平八郎にございます!」
「井伊直政もおりまする!どうか、お話をお聞き頂けませぬか!」
すると、暫くの沈黙の後、奥の戸が開く。
「まずは、お二人でお会いになられるがよろしい。まずは話をつけて来てくだされ」
三郎のその言葉で二人は奥の間へと入っていった。
「三郎。上手くいくと思うか?」
「上手くいかせて見せる。出来なければ、それまでだ……まぁ、あの二人が上手くやってくれるかどうかに限るがな」
すると、二人の入っていった間から忠勝が戻ってくる。
「三郎殿。お会いになるそうです」
「忠勝殿、ありがとうございまする」
三郎と勘助、如水は共に奥の間へと入っていく。
そこには、確かに徳川信康がいた。
(随分と老いたな。そこまでの歳では無い筈だが……この環境がそうさせたか)
三郎は久々に顔を合わせた信康を見て、そう思った。
「どこで噂を聞かれたのかは知りませぬが、某は徳川信康。今は只の三郎としてひっそりと暮らしておりまする」
「某、織田三郎で御座る」
三郎は深く頭を下げる。
「我が祖父、信長があなたの人生を大きく狂わせてしまいました。誠に申し訳無い」
これは三郎の、信長としての言葉であった。
信康ほどの優秀な人間を武田との内通を疑って処刑。
信長は、後悔していた。
「お顔をお上げ下され。悪いのはあなたでは無い筈。謝られる筋合いはありませぬ」
「しかし、謝らせて下され」
三郎は頭を下げ続けた。
「……して、此度は何用ですかな?」
「は、この度、徳川家の当主として立ってもらいたいのです」
三郎は頭を上げる。
「正直に申し上げまする。私が望むのは戦の無い世。民が笑って暮らせる世の中に御座います! 誰が天下人でも構わぬのです。その為には徳川の力は必須。されど、乱れた徳川家中を正すことが出来るのは、正当な後継者である信康様をおいて他にありませぬ」
「……しかし、我が父を殺したのは、織田であろう?」
その言葉に、三郎は返す。
「徳川家康殿は天下泰平を乱そうと致しました。それ故に御座います」
「……」
信康は口を閉じる。
「信康様。三郎殿は今や豊臣政権において無くてはならぬ存在。もし、徳川家当主として立たれるのであれば遠江や三河等の旧徳川領の統治を進言してくださるとの事」
「この井伊直政、そして本多忠勝も信康様に付き従いまする。信康様、そして、重臣である我等二人がお支えします。さすれば江戸にいる多くの者も信康様を徳川当主として認め、家督争いは収まりましょう」
直政と忠勝の言葉を受け、信康は暫く考える。
「……織田殿。まだお主を信じ切る事は出来ぬ。今しばし、時間をくれぬか」
「無論に御座います。ですが、あまり時をかけては、江戸にて起きている家督争いが終わり、当主として返り咲く機会が無くなるやも知れませぬ。出来るだけ、早くお決めなされ」
三郎は頭を下げると勘助と如水と共に出ていく。
暫く歩き、距離を取ると如水が聞いてきた。
「……三郎殿。民が笑って暮らせる世の中にしたいと言うのは……本心ですかな?」
「……未来で見た民達は、何不自由なく暮らしておりました。……如水殿。私は、織田の天下は勿論欲しい。されど、それ以上にあの未来をつくりたいと、そう思っておりまする。それに……」
三郎の言葉に二人は耳を傾ける。
「あぁ言えば、人心は動きやすいでしょうな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます