第122話 岐阜裁定

 関ヶ原にて行われた決戦は豊臣方の圧勝に終わった。

 そして、豊臣方は岐阜城へ集まり、今回捕らえた将の処遇や論功行賞等を岐阜にて行うこととなった。

 

「まず、此度の戦でこちらに寝返った将の方々の処遇について話し合いましょう」

 

 裁定は、三郎が指揮を取る。

 

「伊達殿、津軽殿、佐竹殿が先の戦で寝返りましたが、各々方、何かご意見はありますかな?」

 

 すると、黒田長政が口を開く。

 

「佐竹殿につきましては、加増をお願いしたい。佐竹殿は、此度の戦にて比類なき活躍をなされました。加増していただけませぬでしょうか」

「……では、佐竹殿の所領は加増したいと思いまするが、反対の方はおられますかな?」

 

 三郎のその言葉に反対するものは居なかった。

 それは、予めの根回しのお陰であった。

 

「では次に津軽殿、伊達殿については……」

「三郎殿。よろしいか」

 

 すると、島津豊久が名乗り出る。

 

「……無論に御座います。申して下され」

「伊達殿、津軽殿につきましては、加増しては頂けませぬか」

 

 その豊久の言葉に辺りが少しざわつく。

 それは、あらかじめの根回しと違ったからである。

 

「……理由をお聞きしても?」


 豊久は頷く。


「佐竹義重殿が寝返りを決意したのも伊達殿が我等についたから。津軽殿を説得したのも伊達殿に御座います。それに加え、先の戦で殿軍として獅子奮迅の働きをした津軽殿は、我らに損害こそ与えましたが、その武勇は凄まじい。必ずや力になってくれまする」

「しかし、その武勇に優れる津軽殿と、知略に優れる伊達殿が力をつけるのは危険ではないか? 敵対したというのに、お咎め無しというのも都合の良い話ではないか」

 

 豊久の言葉に輝元が反論する。

 その言葉を聞き、三郎は考えを改める。

 元々、力を持たせないように減封するつもりであった。

 

「では伊達殿、津軽殿は……」

 

 その三郎の言葉に皆が耳を傾ける。

 

「所領はそのままに、金銀兵糧を差し出して頂く。これが最大限の譲歩にござる。豊久殿。よろしいか」

「……は。異論はござらん」

 

 豊久は下がる。

 豊久としては、伊達政宗と津軽為信の戦働きに感心してのことだったのだ。

 

「さて、徳川、南部、最上の所領は此度の戦でご活躍なされた方々にそれぞれ分け与えたいのですが、我が兄、秀信が未だに東で戦を繰り広げておりまする。そこについてはそれらが片付いてからにいたしましょう」

 

 皆が頷く。

 そして、三郎は本題に取り掛かる。

 

「さて、此度の戦において秀忠をそそのかし、豊臣の天下を奪おうとした天海の処遇について話し合いたい」

「打首。それしかありませぬ」

 

 長宗我部盛親が口を開く。

 

「徳川秀忠が死に、責任を取ることができる者が居ない以上、全ての責任を天海殿におってもらう他ありますまい」

「長宗我部殿の申されるとおり!」

 

 そして、福島正則も賛同する。

 

「豊臣の天下を脅かした者にはそれ相応の罰を与えねば!」

 

 その言葉に立花宗茂、徳川信康らも頷く。

 

「ですが、打首だけでは足りませぬな……」

 

 三郎はしばらく考えた後、口を開く。

 

「鋸引き……本来ならば土に埋め、首を鋸引きにしますが……首だけでは無く、さらに手足も鋸引きで切り取った後に、首を鋸引きに致しましょう」

 

 その処刑法を聞き、真田信繁が口を開く。

 鋸引きとは、竹製の鋸で地中に埋めた罪人の首を少しずつ切断する刑罰である。 

 かつて、信長が行った処刑法でもある。

 

「それはやり過ぎでは無いでしょうか……何もそこまでしなくても……」

 

 すると、三郎は信繁を睨む。

 処刑法にまでは根回しをしていなかったからである。

 その不穏な空気を感じ取った秀則が口を開く。

 

「信繁殿! この男はそれだけの事をしたのですぞ! それだけで許されるだけまだましと言うものにござる!」

「左様。信繁殿。ここは引かれよ」

 

 そして、有楽斎も口を開く。

 

「天海殿は此度の戦を起こした徳川秀忠、そして家康の分の罰をも受けるのです。それくらいが良い」

「……分かりました」

 

 有楽斎までにも言われて、信繁は引き下がる。

 

「さて、皆様方。某はこの結果を大阪へ伝えに参りまする。皆様方は我が兄秀信を助けて下され。全軍で東へと向かえば、その兵力差に恐れをなし、抵抗しようとする者はいなくなるはずにございます」

 

 かくして岐阜裁定は終わった。

 伊達、津軽以外は全て三郎思ったとおりに事が進んだのであった。

 

(……もう、終わったか)

 

 三郎は一人思う。

 

(……もう信長としているのは長くないだろう……あの計画を進めるとするか……)

 

 三郎の、最後の大仕事が迫っていた。

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