第121話 光秀と三郎

「負けたか……」

 

 天海は一人戦場を逃げ出した。

 混戦の最中、たった一人で逃げ出したのだった。

 

「さて、これからどうしたものか……」

「天海!」

 

 しかし、天海を追う男が一人。

 天海の後ろから現れる。

 

「織田三郎……」

「天海……いや、明智光秀!」

 

 三郎は単身で天海を追っていた。

 

「……もし仮に儂が明智光秀だったとして、祖父の仇を取るのか?」

「……いいや、祖父ではない」

 

 三郎は刀を抜き、天海へと向ける。

 

「俺の……俺自身の仇を取る」

「俺の……? まさか、いやそんな訳は……」

 

 天海は少し狼狽えた後、三郎を見る。

 

「ま……まさか、あなた様は……」

「……主の事が分からぬか……だから負けるのだ、キンカン頭」

「……くっ!」

 

 天海は急ぎ、馬を返す。

 そして、一気に走らせる。

 

「逃さぬ!」

 

 三郎も馬を走らせる。

 しかし、天海は徐々に差を詰められていく。

 

「な……何故だ……」

「お主は一人逃げるためにその馬を必死に走らせたのだろう! もう限界が来たのだ!」

 

 三郎は距離を詰めた所で刀を投げた。

 それが馬の足に当たる。

 すると、天海の馬が転び、天海は投げ出される。

 そして、三郎が近づく。

 

「……逃げるとは情けない……俺はこんな男に殺されたのか……」

「……くっ!」

 

 天海はすかさず刀を抜く。

 が、三郎はもう一本の刀を抜き、叩き落される。

 

「そう簡単に死なせはせん……」

「……」

「光秀、何故俺を殺した?」

 

 しかし、天海は答えない。 

 

「……いや、そんな事は今となっては些細な事か」

 

 三郎は刀を天海の首に当てる。

 

「……殺すのか?」

「まだ殺さぬ。お主は捕えて、皆の意見で処遇を決める。まぁ、全ての黒幕とも言えるお主は、それはそれは酷い死に方をするであろうがな……」

 

 しかし、天海は顔色を変えない。

 そのことに、三郎は怒りを覚えた。

 

「……そうだ、光秀よ」

「……なんですかな?」

「武士として、傷一つ無く捕らえられるのは恥であろう」

 

 三郎は刀を振りかざし、そのまま躊躇うこと無く振り下ろす。

 

「ぐっ!」

 

 天海は腕に傷を負う。

 天海はたまらず、傷を押さえる。

 

「それだけでは足りぬか……ならば……顔にも傷をつけてやろう」

「三郎!」

 

 すると、三郎と天海の下に秀則達の軍が現れる。

 

「……それは」

「天海だ。そして、その正体は……明智光秀だ」

 

 その三郎の言葉に秀則は驚く。

 

「な!? 天海が、光秀だと!?」

「あぁ。こいつは捕えて皆の意見で処遇を決める」

 

 三郎は刀をしまう。

 

「秀則。俺がこいつをどうしたいかは、充分に理解してるだろ。この後、岐阜にて裁定を始める。それに合わせてこいつの処遇がそうなるように、諸将にそれとなく根回しをしておけ」

「……私に出来るでしょうか……」

 

 すると、三郎は秀則の肩に手を置く。

 

「真田の元で鍛えられたお主ならば出来るだろう。任せたぞ」

「……任せてくれ! 可能な限り、やれる事はやってみせよう!」

 

 三郎は天海を見る。

 

「お主の命運は尽きたな。覚悟せよ」

「……もはや逃げは致しませぬ。覚悟は、決めました」

 

 かくして関ヶ原は豊臣方の大勝に終わった。

 豊臣の世が守られることとなったのであった。

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