第147話 公家との対談
「織田秀信にございまする」
「おお、織田殿! 良くぞ来てくれた!」
京に滞在して数日。
織田秀信はとある公家に呼び出されていた。
「近衛前久様。ご無事で何よりでございます」
「あぁ、流石の津軽為信もここには手を出さなかったのでな」
近衛前久。
名門貴族として有名で、かの織田信長とも懇意にしていた公家である。
「さて、息子の信尹から話は聞いておる。京の復興に力を尽くしてくれているようだな」
「は」
近衛前久の息子の信尹は島津と懇意にしていた。
関が原において近衛前久は、島津と音信するなど中立を保ちつつ、東軍とも関係を守っていた。
そんな近衛前久に秀信は頭を下げる。
「それに、昨日の我が屋敷の放火騒ぎもそなた等のお陰で助かった。本当に礼をいう」
「いえ、それは伊達方の残党が起こした事。残党が潜んでいたことに気付けなかった私の落ち度にございまする。誠に申し訳ありませぬ」
秀信は更に深く頭を下げた。
「いやいや、お顔をお上げ下され。我等は本当に助かっているのですぞ」
「は。ありがとうございまする」
すると、近衛前久は秀信に近付き、肩に手を置く。
「この前久に出来ることがあれば何でも申してくだされ」
「……では、一つだけ」
秀信は頭を上げ、近衛前久の顔をまっすぐ見つめる。
「某を、征夷大将軍に任じていただきたい」
「……成る程」
近衛前久は頷く。
「伊達政宗を討ち取るため、皆を率いていくための肩書きが欲しいと言う訳か」
「左様にございまする」
近衛前久は秀信の申し出に顔色一つ変えることなく、聴き続ける。
「某の所領や、官位などから考えれば皆を率いていくのに相応しいお方は他におられまする。が、今現在皆の気持ちが集まっているのはこの織田秀信だと自負しておりまする」
「……確かに、これまでの経緯から皆を率いるのはお主が適任であろうな」
近衛前久は頷く。
「分かった。この近衛前久がお主が征夷大将軍になれるように取り計らおう。されど……」
「されど……?」
近衛前久は少し笑うと続ける。
「朝廷は些か金銭面で苦労していてな……それをどうにか出来たら、取り合おう」
「成る程……」
秀信は思う。
(……この男、只では動かないか。だが、二度の大返しで大量の金を使った……それに、大阪にも金銀はほとんど残っておらんだろう……この男はそれを分かっていて言っているのか……ならば……)
秀信は口を開いた。
「我らには、それほど多くの金は残されておりませぬ」
「そうであったか……ならばこの話は……」
「されど」
秀信は近衛前久の言葉を遮り、続ける。
「伊達によって大阪に蓄えられた金銀は浪人の手元にありまする。その浪人たちは大阪に留まり、金をあまり使えていない筈。ならば、大阪を落とし、敵の浪人の尽くから金を徴収いたしまする」
「成る程……例の一族郎党を処罰するというあれに則ってか」
秀信は頷く。
「それによって集められた金銀をすべて朝廷に献上いたしまする。敵の総数は十万にも上るといいまする。その家族を含めれば……それでどうでしょうか」
「……成る程。面白い」
近衛前久は笑う。
「ならば、それで話をつけようではないか」
秀信は頭を下げる。
「ありがとうございまする。必ずや、逆賊伊達政宗を討ち果たしてみせまする」
「うむ。帝にはしかと取り計らっておこう」
かくして、近衛前久との対談は終わった。
全ては、想定通りに事が進んでいた。
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