第148話 征夷大将軍、織田秀信。 出陣
数日後。
織田秀信は征夷大将軍就任した。
その新たに征夷大将軍に任じられた織田秀信が京を出陣しようとしていた。
その知らせは瞬く間に知れ渡った。
「兄上。征夷大将軍。就任おめでとうございまする」
「いや、秀則。約束が果たされなければそれ相応の対価を払うこととなる。そういう約束だ」
秀信と近衛前久が交わした約束は大阪に集う大量の浪人の財産全てを朝廷へ献上するという事。
近衛前久はこの申し出を受けたのだった。
しかし、他の公家衆はそれを良しとはしなかった。
他の公家衆は猛反発をしたが、京の町を復興した秀信を無下にすることは出来ず、さらに代替案を付け加えた。
「まず、現在保有している財産全てを朝廷へ預けること。そして、大阪を取り返したとして、もし浪人からある程度の額を徴収できなかった場合、征夷大将軍の座を降りる事」
「成る程……何はともあれ、公家の側からすれば伊達を倒す事ができる。と。征夷大将軍という肩書きさえ与えれば伊達を倒せますからな」
秀信は頷く。
「あぁ。しかしそれは我等が必ずや伊達を倒せるという前提の話だ。油断は禁物だ」
「左様にございます。公家は征夷大将軍になれば確実に勝てるのだろうと踏んでいるんでしょう。甘く見ておりますな」
すると、どこからともなく現れた勘助が口を開く。
「勘助……近衛邸を燃やすのならば先に言っておいてくれ。急に言われて焦ったぞ」
「それは……申し訳ありませぬ」
あの近衛前久との対談の折に話していた近衛邸の放火騒ぎ。
それは、捕らえた津軽為信の兵に、指示通りに動けば無罪放免とすると言い、近衛邸に火をつけさせた。
そして、それを消化し、秀信は近衛前久に恩を売ることができたのだった。
因みに、その捕虜達は皆口封じに殺されている。
「されどあの一件で津軽は朝廷を蔑ろにする者だとし知れ渡り、公家の協力を得やすくなりました」
「……まぁ良い」
すると、伝令が駆け込んでくる。
「秀信様! 立花宗茂様がご到着なされました!」
「よし。すぐに通せ」
伝令は頭を下げ、その場を後にすると、そのかわりに立花宗茂が入ってくる。
「立花宗茂。只今着陣致した」
「おお、立花殿。殿軍、ご苦労であった」
立花宗茂は大返しをする秀信達の背後を守るため、最後方を進んだ。
そのおかげで最も遅れた着陣となった。
「立花殿。お疲れでござろう。此度の大阪攻めも後ろの方からゆっくりとついてきてくだされ」
立花宗茂は首を横に振る。
「いえ、それには及びませぬ」
「それは、何故ですかな?」
「は。此度の戦。未だ活躍出来ておりませぬ。故に、先陣を切らして頂きたい」
その立花宗茂の言葉に秀信は考える。
そして、勘助を見た。
勘助は頷く。
「……分かり申した。では、先陣は立花殿にお任せいたしまする」
「ありがとうございまする!」
宗茂は頭を下げる。
(……これまでならばかの立花宗茂殿がこうも簡単に頭を下げはしなかっただろう……征夷大将軍の肩書きのおかげか……)
そして、秀信は不安を抱えていた。
(果たして、この俺が征夷大将軍に任じられたことに不満を覚える者は居ないのだろうか……いや、居るだろうな。されど、今は殆どの者は伊達を倒す事に目を奪われている……背中を刺される事はないだろう)
そして、秀信は号令を飛ばす。
「よし! 出陣するぞ! 逆賊伊達政宗を討伐する!」
征夷大将軍、織田秀信が出陣する。
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