第162話 大阪の戦況

「……来ぬか」

 

 政宗は城下で繰り広げられる戦況を目にし、口を開く。

 

「は。京からの知らせは未だなく、ここまで来ないとなると、望みは……」

 

 政宗は片倉景綱の言葉を聞き、暫く考えた後、口を開く。

 

「……北と西の敵に動きはないな?」

「は。恐らく、攻めてくることは無いかと」

「……そうか」

 

 そして、檄を飛ばす。

 

「出陣だ! 東門からは俺が直々に出る! 南側からは成実、景綱が兵を率いて出陣せよ!」

「……ついに、やるのですね」

 

 景綱の問いに政宗は答える。

 

「あぁ。秀信を朝敵にすることができなくなった以上、全軍で持って秀信の首を取る他、勝ち目はない起死回生の策が駄目なら、決死の策を取る」

「は。必ずや、織田秀信の首を取ってみせまする!」

 

 政宗は笑う。

 

「ふ……将軍殺しという悪行、この政宗が成し遂げてみせよう。出陣だ! 我に続け!」

 

 

 

「くっ! 流石は前田慶次だ! このままでは押し切られてしまう!」

「はっ! よく言う! 押し切られそうなのは他の部隊だけでは無いか!」

 

 立花宗茂は前田慶次と一進一退の攻防を繰り広げていた。

 しかし、敵側面へと回った軍は最上家親、直江兼続らの軍勢によって押され始めていた。

 

「このまま景勝様の下まで行かせてもらう!」

「そうはさせぬ!」

 

 立花宗茂は奮戦する。

 その姿を見た兵達も奮戦していた。

 立花勢の勢い凄まじく、前田勢も気圧され始めていた。


「……少々マズイか……」


 が、戦況が変わる。

 

「前田殿! ここから先は、伊達の戦ぞ!」

「……伊達殿!? そうか……やるのか!」

 

 前田勢の背後から伊達政宗の本隊が現れる。

 

「全軍突撃! 狙うは征夷大将軍、織田秀信の首! 皆の者! 征夷大将軍を討ち取り、歴史に名を残せ!」

 

 伊達政宗の騎馬隊が駆け抜けていく。

 織田方の劣勢の陣を見抜き、突き抜けていった。

 

「ま、まずい! 行かせるな!」

「悪いな立花殿! 行かせてもらう!」

 

 僅かな間隙から伊達軍が駆け抜けていく。

 前田、上杉、最上勢もそれに続く。

 

「くっ! やられた……追え! あの勢い、毛利殿の軍だけでは止められぬ!」

 

 織田方もそれを追うが、劣勢で士気も落ちていた織田方は追いつけない。

 

「あれは……伊達政宗か!? 総大将自らとは……これはまずいか」

 

 上杉景勝を押し留めていた毛利輝元は伊達政宗の本軍の接近に気が付く。

 

「皆の者! 耐えるのだ! 南側からの増援がすぐに来てくれるはず! それまで……」

「と、殿! 大阪城南側からも敵が出陣したとのことにございまする! 押されてはおりませぬが、こちらに回せる兵力は……」

「くっ! これはまずい!」

 

 毛利輝元は悟る。

 負けを。

 自らの死を。

 兵は伝令が叫んだ増援が来ないという知らせを聞き、それに加えて突如として現れ物凄い速度で迫る伊達政宗の本隊に混乱し、寡兵の景勝でさえ抑えきれなくなっていた。

 その隙を、景勝は見逃さない。

 

「……ここまでか。秀信殿……ご武運を」

「毛利輝元! 覚悟!」

 

 景勝の槍が輝元を貫く。

 輝元は血を流しながら馬から落ちる。

 

「に、逃げろ!」

 

 毛利輝元が討ち死に。

 それはすぐに兵に知れ渡る。

 瞬く間に毛利勢は散り散りに逃げ、崩壊する。

 

「突っ込め! 織田秀信の首をとれ! この伊達政宗に続け!」

 

 独眼竜伊達政宗の刃が、秀信へ迫ろうとしていた。

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