第163話 迫る刃

「伊達政宗の本隊が迫っているだと!?」

 

 秀信を守るのは福島正則。

 そして真田勢。

 伊達政宗が迫っているという知らせはすぐに届いた。

 

「毛利殿も破られたか……ここは、我等が踏ん張らねばなりませぬな……」

「うむ……されど、あの勢い。そう簡単には止められぬ……」

 

 昌幸は暫く考える。

 しかし、時はない。

 凄まじい速度で迫っている伊達軍に、昌幸は策を考えた。

 

「……福島殿。中央を頼みまする。我等は両翼を担当致しまする」

「……一度秀信殿の本陣まで兵を下げるのはどうか? 合流すれば兵力では我等が上回るぞ」

 

 福島正則の言葉に、昌幸は首を横に振る。

 

「いえ、敵のあの勢い、そう簡単には抑えられませぬ。もし万が一、秀信殿が討ち取られでもすれば、我らの負け。その危険を冒すのは危うい」

「……なれば、我らで出来るだけ勢いを削ぐ、か」

 

 福島正則は頷く。

 

「ならば、やれるだけの事をやろうではないか」

「……いや、構わないでくだされ」

 

 すると、二人の下に秀信が姿を現す。

 

「我らの本陣が、中央を担当する。福島殿、真田殿で両翼を頼む」

「秀信殿……されど、それは危険すぎますぞ」

 

 秀信は頷く。

 

「分かっている。しかし、確実に勝つためにはここで奴を抑えなければならん。兵力が上回れば勝つ可能性も上がると言うもの。それもそうだろう?」

 

 秀信は側にいる勘助に聞く。

 すると、勘助は渋々頷いた。

 

「……それもそうにございますが……危険な事には変わりありません。もし秀信様に何かあればここまで築き上げてきた物が一気に崩れます」

「……ここまで助けてくれた三郎に、お前が居なくても大丈夫だと言うことを示したいのだ。……分かってくれ」

「……」

 

 勘助は三郎の名前を出されると黙ってしまう。

 すると、昌幸は勘助に近づき、耳打ちする。

 

「……勘助殿。何故止めなかった……お止めするのがお主の役目であろう」

「……わかってはおりますが……周囲の者も乗り気で、止められませんでした……」

 

 勘助は肩を落とす。

 秀信の側にいる者達、百々綱家や木造長政、それに弟の秀則も秀信を支持し、止めることが出来なかったという。

 昌幸は勘助の肩を叩く。

 

「……まぁ、仕方が無い。ならば確実に勝てる策を献上するとしよう。勘助殿。ご助力願えるか」

「……無論に御座います!」

 

 昌幸は秀信の前へと姿を現し、頭を下げる。

 

「秀信様! 申し上げたき事がございまする!」

「……何を言われても考えを変える気はないぞ」

 

 昌幸は頷く。

 

「分かっておりまする。某が申し上げたき事、それは必勝の策にごさいまする! この昌幸と勘助殿。我ら二人が知恵の限りを尽くして秀信様を確実な勝利に導いてみせまする!」

「どうか、我らにお任せを!」

 

 勘助も頭を下げる。

 

「……分かった! 策はお主等に任せる! 皆の者! 二人の言う通りに動け!」

 

 伊達政宗の刃が迫りつつあった。

 しかし、秀信は動じない。

 必ず勝つと言う意思の元、政宗と戦う。

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