第164話 最後の大戦
「織田秀信が……総大将自らが出て来たか……」
政宗の眼の前には秀信の軍が布陣していた。
「中央に織田、左翼に福島。右翼に真田か……」
昌幸は敵陣を見据える。
既に構えは万全。
奇襲とならない事は明白であった。
「……やる事は変わらん。全軍! 狙いは織田秀信ただ一人! 突っ込め!」
政宗最後の戦が始まる。
伊達勢が織田勢に襲いかかる。
その勢いに、織田方の中央が徐々に押され始める。
「怯むな! 押し返せ!」
木造長政が先頭で槍を振るい伊達勢を押し返す。
敵を次々と切り倒し、その後に兵達も続く。
「伊達政宗の兵はその程度か! そんなものでは儂の首すら取れんぞ!」
「ほう! 織田家の重臣、木造長政殿か! お相手願おうか!」
すると、伊達勢の中から前田慶次が前へ出る。
伊達軍も両翼に上杉、最上の手勢を配置しており、確実に秀信の首を取るため、慶次を中央に配置した。
「前田慶次……相手にとって不足は無い!」
木造長政が槍を繰り出す。
「はぁっ!」
しかし、前田慶次は難なくそれをいなす。
「ふむ。その程度か」
自らの攻撃を難なくかわされた木造長政に、僅かな隙が生まれる。
その隙を前田慶次は逃さない。
「はっ!」
「木造殿!」
慶次が槍を繰り出す直前。
織田方の中から声が響く。
「っ!」
慶次はすぐさま危険を察知し、身を小さくする。。
木造長政もその場に伏せる。
「放て!」
そして次の瞬間、鉄砲が放たれる。
しかし、距離があった為、前田慶次には当たらなかった。
しかし、伊達の雑兵にはある程度は命中し、僅かに隙が生まれる。
「突っ込め!」
そして、伊達勢が怯んだ隙を見逃さず、織田勢は兵を繰り出す。
大した一撃ではなかったが、長政を救い出すのには充分であった。
「木造殿! 無事か!」
「綱家殿……助かった。流石にあの前田慶次には敵わぬか……」
百々綱家は頷く。
「あまり無茶をするでない。お主に死なれては困る。それに、まだ無茶をする場面では無いぞ」
「……そうであったな」
木造長政は槍を握りしめる。
そして、激を飛ばす。
「引け! 一度態勢を立て直す!」
長政の言葉で兵が引いていく。
兵が安全圏まで引いたことを確認し、百々綱家は再度鉄砲隊に指示を出す。
「放て!」
銃声が鳴り響く。
その攻撃に伊達方は再度怯み、織田方の先鋒は陣を下げることに成功した。
「押せ押せ! 休む暇を与えるな!」
前田慶次が中央を押し上げる。
それに伴い、織田方の中央はどんどんと下がっていく。
「これは……まずいか」
伊達政宗は戦況を見て判断する。
織田方は徐々に鶴翼の陣系になりつつある。
対して伊達方の両翼は押し切れておらず、包囲される形になってきていた。
「……それが狙いか……だがしかし!」
伊達政宗は刀を抜き、供回りと共に駆ける。
「今こそ好機! 敵は思い通りに策が進んでいると油断している! それに鶴翼の陣は連携が取りにくい……つまり、今秀信は助けに入れるものが居らぬという事! 今こそ、秀信の首を取る時だ! 我に続け!」
既に伊達方の陣形は包囲されつつあり、もし政宗の中央が下がれば、両翼がどんどんと押し込まれ、陣形が崩れる。
政宗が離脱できたとしても、壊滅的な被害は免れない。
勝つためには、進むしかなかった。
「……全ては、我が策の通り」
昌幸は笑った。
「伊達政宗よ。我らの勝利だ」
政宗は、昌幸の術中に陥っている事に気が付いていない。
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