第169話 大阪奪還 そして山積みの課題

  後日。

 秀信達は大阪城へ入城した。

 政宗を倒し、天下を手にしたと言っても、課題は山積みであった。

 

「……やはりか」

 

 秀信は蔵を見ていた。

 ほぼ空っぽの蔵を。

 

「ここまで残っていないとはな」

「……まぁ、予想はついていた事。策はあるのでしょう?」

 

 有楽斎の言葉に秀信は頷く。

 

「あぁ。じつは、伊達の兵に堤を作らせた時に、道具を先に商人から買い占めて、高値で伊達の兵に売っていただろ? そのお陰でそれなりに蓄えはある。まぁ、それでも足りんが……」

 

 秀信は懐から文を取り出し、有楽斎に渡す。

 

「どうやら、近衛前久が独断で悪巧みをしていたようでな。朝廷はその謝礼として、規定の量の三分の二で良いと言っている。……何者かが、暗躍した気がするが……今は見逃そう。後で確実に問い詰めてやる……まず探すところからだが……」


 上杉景勝との戦いで秀信の窮地を救った男はあの後颯爽と姿を消した。


「それは、深く踏み込まぬ方が良さそうだな……なにはともあれ、それならば金は何とかなりそうだな」

 

 秀信は頷く。

 

「ギリギリだが、足りはする。その後の幕府を運営する資金は足りんがな」

「……では、その事も考えねばなりませぬな」

 

 そこで、有楽斎は一つ思い出す。

 

「……そう言えば、毛利家はどうするおつもりで?」

「……毛利輝元殿が討ち死にし、当主が不在となった毛利家は、荒れるであろう。だからその前にあれを出す。あれさえ出せば正当性が主張出来るからな」

「あれ……まさか……」

 

 有楽斎は気付く。

 

「そうだ。天下惣無事令。それを出して戦を止めさせる。まぁ、それを出した所で家督争いで毛利家は内紛が起こるだろう。それを理由に、毛利は処罰する」

「……それが、三郎殿の考えですかな?」

 

 秀信は頷く。

 三郎の策は全てが終わった故、勘助から明かされていた。

 

「……有力な大名をありとあらゆる手を使って弱体化させる。伊達や上杉を敵にしたのもそういう理由だ」

「という事は……長宗我部や島津も?」

「……いや、今のところ考えてはいない。活躍してくれた者に悪いからな。三郎の考えとは違うがな」

「……」

 

 有楽斎は、秀信が三郎とは違い、自分なりの考えで統治するつもりだということに気付く。

 そこに秀信の統治者としての成長を感じていた。

 

「……さて、戦後処理が大変だな……予定通り浪人衆とその家族を処罰して金を巻き上げる。そして、幕府も開設しなければ」

「……何処に開かれるおつもりで?」

 

 秀信はしばらく考える。

 候補は複数あった。

 

「まずは室町幕府のように朝廷と密接に関われる京。次に我等の本拠地である岐阜。後は、我らの始まりの地である清須……もしくは那古野か……それにここ大阪というのもありだな」

「……そして、安土か……ですかな?」

 

 有楽斎の言葉に秀信は頷く。

 

「あぁ。だが、安土に城をもう一度築くとなるとやはり金がかかる。そこも考えなくてはな」

「……では、やはり目下の課題は金ですな」

「兄上!」

 

 すると、秀則が姿を現す。

 

「皆様方がお待ちにございまする! ……金策は、何とかなりそうなのですか?」

「……まぁ、まだ分からん。正直、苦しいがな」

 

 秀信は振り向き、蔵を後にする。

 

「さぁ、行くぞ秀則。話し合おうではないか、織田の天下を」

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