第156話 景勝と政宗
「おお! 上杉殿! 良くぞ来てくれた!」
「伊達殿……お元気そうですな。何よりに御座る」
政宗と景勝は対面を果たす。
織田方から何も介入は無く、難なく合流できたのである。
「……さて、どこまで話は知っておられるかな?」
「大体は……されど、伊達殿がこの後どうするつもりか。それはまだ知りませぬな」
すると政宗は頷き、答える。
「実はですな……堤を作るに当たってかかる費用、それが全て我らの持ちになっておるのです」
「……政宗殿は集った浪人に金を与えていると聞くが……」
景勝の言葉に政宗は頷くが、良い表情を浮かべない。
「その通りにございます……それに、浪人衆もこのような仕事をさせるならもっと金をよこせと……寄こさねば働かぬと言い、仕方なくさらに金を使い申した……」
「……流石に金が無いのでは? 十万もの兵を動かし、堤も作るとなればかなりの金が飛んでいくであろう」
政宗は頷く。
事実、蓄えはみるみる内に減っていき、このまま堤を全て作れば蓄えられた兵糧を売るかどうかのところまで来ると推測されていた。
「何故、そのような申し出を受けられたのだ……」
「……織田秀信は征夷大将軍に就任するにあたり、金を使ってしまったと言い、今すぐ用意できる金は無いと……それ故、後で約定通りに半分払う故、今だけは負担して欲しいとな」
「成る程……反論すれば戦に発展してしまう……それ故、受けるしか無かったのか……」
「あぁ……籠城戦となれば対等に戦えようが、時が立てば経つほど我らは不利になる。状況を変えるにはこれしかなかった……」
政宗はため息をつく。
「はぁ……しかししてやられた。これでは新たに兵を集める訳にも行かなくなる……」
「……それが秀信の狙いか……金を使わせ、兵を離反させようと……」
「いいや……」
すると、政宗が首を振り、景勝の言葉を否定する。
「奴の狙いはそれだけでは無い……」
「……それは?」
「この大阪近辺の商人、全てに秀信の息がかかっておりまする。堤を作るに当って必要な道具は全て秀信の手勢が買い、それらの者共は商品に扮しそれを高値で我等に売っている……」
その事を聞き、景勝は驚きを隠せずにいた。
「なんと……卑劣だな。それでは後々払われるという金もお主等の物ではないか」
「左様……そもそも支払う気があるのかどうかさえ怪しい……この事はまだ公表してはいないが、いずれするつもりよ」
「……それでは、浪人衆が黙っておるまい?」
政宗はニヤリと笑う。
その様子を見た景勝は政宗の考えを察する。
「……それを理由に兵の士気を上げ、秀信の評判を下げ、戦を起こすというわけか。敵の士気も下がれば、勝てる可能性も上がるというもの」
「左様。奴等が堤を築いている理由も大方察しがついている。奴等はまず大阪城の外側にのみ堤を築かせている。それはさながら防塁のようでな。こうなっては我等が打って出る選択肢が無くなる」
景勝は手を叩き、納得したようであった。
「成る程! この堅牢な大阪城を力攻めするのは難しいからと、包囲する兵をできるだけ少なくし、最も守りの弱い南側に集中するためにするために堤という名の防塁を築いているのか!」
「だが、そうはさせぬ」
政宗は立ち上がり、外で着々と工事が進められている堤を見る。
「一つだけ堤には細工がしてある。簡単に崩れるように作っていてな……出来上がる直前に皆に秀信の悪行を知らしめ、戦を始める。そして、開戦と同時に堤を破壊し敵の意表を突く。防塁によって油断している敵を打ち破り、頃合いを見て南側の兵も打って出て秀信の首を取る!」
「……ならば、確実にやらなければな」
政宗は頷く。
「……奴らの思い通りにさせはせぬ……上杉殿。誠に心強い味方を得ましたぞ!」
「政宗殿……我等も力を尽くそうぞ」
上杉景勝が伊達政宗に合流した。
その事はすぐに大衆に知らされる事となる。
秀信と政宗の決戦の時が近づいて来ていた。
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