第157話 決戦の火蓋

「おい……聞いたか? 俺達が使ってるこの道具、織田秀信が商人から買い占めて、秀信の手の者が俺達に通常より高値で売ってるそうだぞ」

「何? それじゃあ、あいつら今は金が無いって言って、堤を作る金を今は払わないで、俺達から巻き上げた金を俺達に支払うってのか!? 何だそれ! ふざけてんのか!?」

 

 堤が完成する直前。

 秀信の行動は伊達方の兵達にも知るところとなった。

 

「実はな……伊達様も動いているらしい。密かにこの堤に細工してすぐにぶっ壊せるようにしてるらしいぞ」

「てことは……」

 

 男は頷く。

 

「戦だ。戦が近いぞ」

「お、おう! 早く皆に知らせねぇと!」


 男はすぐにその場を去る。


「……さぁ、どんどん広めてくれよ」

「殿……いえ、太郎様。そろそろ」

「馬鹿。様もつけるな。分かってる行くぞ」


 男達は音もなく消える。

 戦が始まるという噂は徐々に広まっていった。

 

 

 

「事は順調そうですな」

「……天海殿。戦が始まれば勝てると思うか?」

 

 政宗の問いに天海は答えない。

 その代わりに南部利直が答える。

 

「政宗殿。勝てるかどうかは分かりませぬが、我らの士気は高い。目にもの見せてやることくらいはできますぞ」

「左様。南部殿の申される通り! 我ら石田勢も織田秀信を討ち取るまでは死ねませぬ故な!」


 二人の答えに政宗は納得していない様子であった。

 政宗はため息をつく。


「……目にもの見せても負けては意味が無い。良いか。浪人筆頭衆として浪人を率いるのはお主等だ。最も数の多いお主等を主力とするが、切り札は上杉殿と最上殿の兵だ。この者達は連携が良く取れている。破壊した堤から打って出るのは浪人衆ではない。指示と違う動きはしないで頂きたい」

「わかっておる……だが、活躍の機会はあるのであろう?」

 

 利直の言葉に政宗は頷く。

 

「あぁ。上杉殿達が、打って出て敵が動揺し、陣が乱れたと同時に出陣してもらう」

「……相分かった。期待していて貰おう」

 

 政宗は外の堤を見ながら口を開く。

 

「さて……我らの策が何処まで見透かされているのか……何処まで相手の想定の上を行けるのか、それが鍵だな」

 

 

 

「兄上。伊達より使者が」

「うむ。会おう」

 

 堤が全て完成すると、伊達政宗から織田秀信へ使者が訪れた。

 使者が秀信の陣を訪れ、頭を下げる。

 

「お目通り頂きありがとうございまする」

「何。和平を結んだのだ。当たり前であろう」

「は」

 

 使者は頭を上げる。

 

「その和平の話。無かったことにしていただきたい」

「……ほう」

 

 秀信は立ち上がり刀を抜き、使者の首に当てる。

 しかし使者は動じない。

 

「……肝が座っているな」

「我が主、政宗様の決意は変わりませぬ。ここで某の首を撥ねたとて、戦が起こるという事は変わりませぬ」

「……そうか」

 

 秀信は刀をしまう。

 そして、元いた位置に戻る。

 

「分かった。政宗殿に正々堂々と決着をつけようと伝えてくれ」

「は。確かに」

 

 使者は頭を下げるとその場を後にする。

 

「……いよいよ始まるな」

「すぐに皆に戦の支度をするように伝えまする」

 

 秀信は頷く。

 

「三郎……織田の天下はすぐそこだぞ」

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