第159話 激戦

「かかれ! この戦の勝敗、我等にかかっておるぞ!」

 

 突如として堤が破壊された。

 堤として積まれた土は崩れ、川へ流れ、川は浅くなる。

 浅くなった川を渡り、伊達方は出陣する。

 政宗はそうなるように破壊させたのであった。

 

「敵は意表を突かれた筈! このまま包囲している敵を切り崩し、秀信の首を取る!」

 

 最上家親も自ら先頭に立ち槍を振るう。

 堤を防塁としていた織田方は各方面に一万の兵を配置する予定であった。

 しかし、完成直前であった東側の堤に不安を感じた秀信は東側の兵力を二万とした。

 対する伊達方は三万。

 完全に平野部での合戦と相成った戦場では伊達方の有利となるかと思えた。

 が、想定と違う状況に陥った伊達方は足を止める。

 

「……何? 調べでは二万と聞いていたが……」

「これでは、三万はいるでは無いか! 上杉様! 同数の戦となりましたぞ! いかが致しまするか!?」

 

 何故か織田方は三万。

 伊達方は必ず勝つ為に、情報を念入りに調べ上げていた。

 しかし、その情報に間違いがあったのである。

 織田方は政宗の策を開戦直前に見抜き、兵を密かに移動させていた。

 

「……いや、やる事は変わらぬ。慶次!」

「おう!」

「お主が先陣を切り、敵陣を崩せ! 狙うは織田秀信の首ただ一つ!」

 

 慶次はニヤリと笑い、朱槍を掲げ、叫ぶ。

 

「承知! 皆の者! この前田慶次について来い! 織田秀信への道、今はまだ見えずとも、この前田慶次が進んた先が皆の進む道だ! 我の足跡が皆の道となる! この前田慶次に続け!」

 

 前田慶次が突撃する。

 対する織田方は、立花宗茂を主将に、織田信雄、秀雄、有楽斎、生駒、蜂須賀、丹羽等の将である。

 

「あの男……並みの将では止められぬか。信雄殿! 敵左翼側側面へと回り込み、勢いをそいで下され!」

「相分かった!」

「他の方々は敵右翼側へと!」

 

 立花宗茂は前田慶次を止められる者は他には居ないことを理解し、一手に引き受ける。

 雷切を抜き、構える。

 

「決してあの男を通すな! 我らが崩れれば、それは負け戦へ繋がると心得よ!」

 

 立花兵も構える。

 そこに、上杉勢が襲い掛かる。

 

「西国無双! 立花宗茂殿か! 相手にとって不足はない!」

「前田慶次殿! お噂は聞いておりますぞ! いざ、尋常に!」

 

 慶次と宗茂が刃を交える。

 しかし、両者一歩も譲らない。

 馬上で繰り広げられる激しい剣戟に、終わりは見えなかった。

 

「やるな……」

「前田殿こそ。流石ですな」

 

 立花宗茂のその言葉に、慶次はニヤリと笑う。

 

「されど、我が目的は果たした! 殿!」

「慶次! 良くやった! 後は任せよ!」

 

 すると、二人の脇を上杉景勝が手勢を引き連れ駆け抜けていく。

 

「何だと!?」

「側面へと回り込んだ敵は直江殿と最上殿が押さえておられる。あとは殿が秀信を討ち取るだけ……」

「……流石、ですな」

 

 立花宗茂は素通りする上杉景勝とその手勢を見逃す。

 

「良いのか?」

「……少々想定とは違ったが……まだ布石はある」

 

 景勝達はひたすらに秀信の陣を目指す。

 しかし、景勝達の足が止まった。

 

「……まさかそこまで見透かされていたというのか……」

「上杉景勝! 見事である!」

 

 景勝達の手勢の目の前に現れたのは毛利勢であった。

 

「本来ならば予備の予備である我らの出番は無かったはず……まさかここまで来るとはな……」

「南部殿の挑発に乗らなかったのか……しかしやることは変わらん。皆の者! ここが死地と心得よ! 突っ込め! 一人でも多く敵を突き破り、秀信の首を取るのだ!」

 

 大坂の陣最大の激戦が繰り広げられる。

 しかし、この状況でも政宗の本隊は動かない。

 政宗は、見極めていた。

 自身が出陣するその時を。

 政宗は起死回生の策が遂行されるのを待っていた。

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