第3話 岐阜城の戦い 開戦

「攻めよ! 敵は寡兵! 臆することは無い!」

 

 瑞龍寺山砦を攻め上る軍。

 旗印は浅野。

 浅野幸長である。

 

「殿、忠吉殿が攻め始めたようです」


 浅野忠吉は元は美濃の人間。

 地理に詳しく、小道を用いて東側から砦に迫っていた。


「そうか。そういえば、昨日より旗の数が多くなっているな」

「稲葉山砦から敵が居なくなったと報告がありました。どうやら、こちらに兵を集めたようですな」

「ならば、心してかからねばな」

 

 すると、その場に伝令が駆け込んでくる。

 

「ご、ご報告申し上げます!」

「どうした?」

「道中に数々の罠が仕掛けられており、進軍は難航しております!」

 

 この報告に幸長は驚いた。

 まさかの報告に、幸長は慌てず動く。

 

「良い、慎重に進軍せよ。焦ることは無い」

「ははっ!」

 

 岐阜城を守る兵は少ない。

 焦って攻めては無駄に兵を死なせる。

 浅野幸長はそう思い、慎重に軍を進めたのだった。

 

 

 

「……罠?」

「はっ! 昨日より権現山砦の兵の数が増えているようでして、所々に罠が仕掛けられております!」

 

 井伊直政。

 徳川四天王の一人は瑞龍寺山砦の西に位置する権現山砦を攻め上っていた。

 

「……その罠に乗じて敵は攻めてきたか?」

「いえ、敵は姿を見せておりません!」

「罠の内容は? 死ぬ程か?」

「いえ、精々足を止める程度です!」

 

 井伊直政はしばらく考えた。

 罠が仕掛けられているならば、それに応じて奇襲を仕掛けるのが尤もだ。

 だが、敵はそれをしてこない。

 いや、出来ないのだろうか。

 

「急ぎ兵を進めよ。」

「はっ!」

 

 微かに感じる違和感に、井伊直政は焦りを感じるのであった。

 

 

 

「祖父上、瑞龍寺山砦の方面は思惑通りに進んでいるようです。」

「俺のことは祖父上と呼ぶな。俺は客人、総大将はお前だ。俺のことは軍師として扱え」

「はっ!」

 

 秀信は頭を下げた。

 が、すぐに気付き、頭を上げた。

 そしてすぐに言い直す。

 

「わ、分かった。よろしく頼むぞ三郎」

「はっ!」

 

 一応、頭を下げた。

 

「それにしても急いで罠を作ってから兵を引かせるとは、考えましたな」

「すぐに砦に取りつかれればいないのがバレてしまう。それでは意味が無い。木と木の間に紐を張ったりマキビシを巻いてみたり、落とし穴を掘ったり、すぐにできるような簡単な物だが大軍の足を遅くするのには充分だ」

 

 すると、天主へと誰かが駆け上がってくる。

 

「殿! 惣構が破られました! 福島、細川、加藤の軍が七曲道を攻め、京極勢が百曲道、池田勢は中河原に陣をしき、水手道を攻めるようです!」

「では、急ぎ兵を引かせろ。敵が武藤砦に取り付いた所で稲葉山砦から兵を出し後方を攻めよ」

「はっ!」

 

 伝令は急ぎ戻っていく。

 

「これでよいのですね?」

「あぁ。後方の敵は油断しきっている。そこをいきなり攻められれば士気は一気に落ちる。そして、後方の動揺は前線にも伝わるだろう。そこを一気に攻める。そして、敵が態勢を整えたらすぐに引く」

「そして稲葉山砦の伏兵は機を見て砦に引かせ、敵の目を稲葉山砦に向けさせた所で再度武藤砦から打って出る。敵はたまらず後退するでしょうな」

 

 秀信の言葉に頷いて見せる。

 戦下手というわけではないか。

 

「だが、他の攻め手はひたすらに戦うしか無い。そこは瑞龍寺山砦から引かせた兵達で長引かせるしか無い」

「もう少し待てば石田様の軍勢が駆けつけましょう。それまでの辛抱です」

 

 ……それは来ないだろう。

 少なくとも、明日明後日には来ない。

 やはり、ここで勝つしか手は無い。

 ……一つ手はある。

 ……やってみるか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る