第25話 織田の血脈

「殿、本当に宜しかったのですか!?」

「取り返しはつきませぬぞ!」

「百々、木造もう良い決めたのだ。」

 

 三郎が去った後の織田の陣。

 織田家の家老達は秀信と三郎の間で交わされた話を聞き、反対の意見を出していた。

 

「しかし、それがもし失敗すれば今度こそ織田家は滅びまする!」

「どうか!どうかお考え直しを!」

 

 百々と木造は秀信の眼の前で平伏し、懇願する。

 

「二人共。私はもう決めたのだ。ここで我が人生が終わろうと悔いは無い。歴史に名を刻めるのだからな。」

「……承知しました。」

 

 木造が顔を上げ、槍を手に取る。

 

「この木造長政、最後までお供致します。老いぼれてすが、まだまだ槍の腕は衰えませぬ!」

 

 その言葉を聞き、百々も立ち上がる。

 

「では、儂も。……殿を主君に迎えてから、何処かでこうなることを祈っていたのやも知れませぬな。」

 

 二人は秀信の決意が硬いことを知ると、それを支える事を誓った。

 すると、陣に弟の秀則が顔をだす。

 

「兄上、我等はまだ動かぬのですか!?」

「……これは、私の独断だ。」

 

 秀信は百々と木造にそう言うと、秀則に近付く。

 

「秀則。お主は杉江勘兵衛、松田重太夫殿と共に急ぎ大垣へ行け。」

「大垣?何故ですか?」

「徳川父子を取り逃したときの備えだ。もし討ち取ったならば、我等が勝ったと知り、岐阜の敵は逃げ出すやも知れん。お前は大垣で臨機応変に動けるようにしておけ。」

 

 秀則は少し考えると頷いた。

 

「分かりました。」


 秀則が陣を出て行こうとする。


「……秀則!」

 

 が、秀信が呼び止めた。

 

「良いか。何があっても私はお前の味方だ。という事はお前は私の味方だ。我等兄弟、決して敵対することは無い。そうだな?」

「は、はい。」

 

 秀信は語り続ける。

 

「この先、我等がどうなろうとも、お前は織田の血脈を守れ。良いな。」

「……兄上。一体何をしようとしてるのですか!?」

 

 しかし、秀信は語らない。

 すると、秀則はある事に気が付く。

 

「……兄上!……三郎殿は、祖父上は何処に居られるのですか!?」

「秀則様!」

 

 すると、木造が秀則を抑える。

 

「秀則様。我が殿は心をお決めになられたのです。天下を、織田の手に取り返すと。」

「……ならば、ならば私も共に!」

「なりませぬ!」

 

 そこで、百々も止めに入った。

 

「ここから先は危険な大博打。三郎殿の策があろうとも、成功するかどうかは分かりませぬ。その為、貴方様には生きてもらうのです。織田の血脈を守る為に!」

「……分かった。」

 

 秀則は頷く。

 

「では、事が上手く運べば岐阜を取り返しまする。徳川父子が落ち延びたとあればすぐさま討ち取る為、出陣いたしまする。」

「……三郎は徳川と石田殿、両方が死ぬ事が大事だと言っていた。討ち漏らしてはならんぞ。」

「はっ!」

 

 秀則は頭を下げると去って行った。

 その後ろ姿は何処か不満気であった。

 

「……これで良かったのか?この後が最も大事な場面だと言うのに手勢を減らすような真似を……。」

「まぁ、杉江勘兵衛と松田重太夫は石田の家臣じゃ。連携を乱されるよりは良いだろう。」

「百々の言う通りだ。危険な大博打だからこそ、少しでも確実にしておきたいんだ。」

「殿!」

 

 すると、伝令が駆け込んでくる。

 

「松尾山より狼煙が上がりました!」

「小早川を内応させたか。流石は三郎だ!」

 

 秀信は伝令の言葉を聞くとすぐさま指示を出した。

 

「出陣じゃ!敵は石田三成!我等の手に天下を取り戻すぞ!まずは大谷吉継を討つ!我に続け!」

「「おお!」」

 

 歴史が今、大きく変わろうとしていた。

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