第20話 変わりゆく戦況

「くっ!流石は井伊の赤備え。そう簡単には崩れぬか!」

「流石は五大老、宇喜多秀家!我等の攻めをなんともせぬとは!」

 

 井伊直政と宇喜多勢は一進一退の攻防を続けていた。

 その激しい攻防は双方の旗幟が二度三度退いたと言われるほどであった。

 しかし、突出している宇喜多勢は筒井定次、京極高知、藤堂高虎勢らに三方から攻めかかられており、兵の疲弊は激しかった。

 

「今ぞ!敵の側面をつけ!」

「長宗我部の力を見せつけよ!」

 

 しかし、宇喜多勢が包囲されるのは作戦通りであった。

 筒井定次を小西勢が側面を突き、長宗我部勢が藤堂、京極勢の側面を突いた。

 

「……流石に不利か……。しかし、小早川を寝返らせるためにもここで屈する訳には行かん!井伊の赤備えの力を見せつけよ!」

 

 井伊直政は自ら先頭に立ち、槍を振るい、宇喜多勢を押し留めたという。

 しかし、側面を突かれた筒井、藤堂、京極勢が徐々に後退。

 次第に井伊が包囲される形になるが、井伊勢はそれを恐れ、後退する。

 戦況は圧倒的に西軍有利であった。

 

 

 

「戦況は……三成殿の方が優勢、か。」

 

 小早川秀秋が陣取る松尾山。

 ここからは関ヶ原の戦場がよく見える。

 小早川秀秋はどちらが優勢かを見極めていた。

 

「殿、石田様から再三の催促が……。」

「うむ、そろそろ頃合いであろう。我等は西軍に……。」

 

 すると、伝令が駆け込んでくる。

 

「ご報告申し上げます!」

「何事じゃ!」

「南宮山の南に、徳川秀忠様の軍勢がご到着!」

 

 小早川の陣がどよめく。

 

「秀忠殿の軍は大軍と聞く。この戦分からぬぞ。」

「しかし既に西軍は圧倒的。それだけでは……。」

 

 小早川の家臣団は秀忠の着陣により動揺を隠せなかった。

 どちらに付くかで自分達の未来が決まる。


 小早川は、まだ動かない。

 

 

 

「秀忠め!遅いわ!」

 

 秀忠着陣の知らせは家康の元にも届いていた。

 

「まぁ、間に合ったのならば良い。これで直政達は押し返せるであろうな。じゃが……。」

 

 家康は松尾山を見る。

 

「小早川め……早う動かぬか!」

 

 そこで家康はあることを思いついた。

 

「そうじゃ、秀忠に松尾山を銃撃するように伝えよ。」

「はっ!」

 

 伝令はすぐさまその場をあとする。

 

「これで、小早川も動くであろうな。」

「で、伝令!」

 

 すると、すぐさま別の伝令が駆け込んでくる。

 

「我等の後方より、敵勢!旗印は、六文銭!既に池田様は潰走!」

「な……真田じゃと!?」

 

 思わず家康は立ち上がった。

 

「秀忠の馬鹿め……。連れてきおったわ!」

「さ、さらに秀忠様の陣の後方に福島様の兵が!」

 

 その報告に思わず家康は安堵する。

 

「お、おお!福島殿が!それならば安心じゃ!一気に攻めよ!」

「そ、それが……秀忠様を攻めております!」

 

 

 

「我こそは福島正則!我等はこれより、石田ではなく、織田様にお味方する!今こそ御恩を返すときぞ!」

 

 福島正則が率いてきた兵は皆岐阜城で命を救われた者である。

 皆、恩を返そうと必死なのだ。

 

「しかし殿、よろしかったので?」

「……真田の策に乗ったような気がするが……。良い。」

 

 福島は織田の旗を見た。

 

「元々刃を向けたくないが故に、戦に参加するつもりは無かったが……ここで討ち死にしてほしくは無いからな。」

 

 福島正則は槍を秀忠の陣に槍を向ける。

 

「敵は徳川ぞ!者共、かかれ!」

 

 

 

「家康は、さぞ慌てておるであろうな。」

 

 関ヶ原に着陣した真田昌幸。

 着陣前に福島正則を調略していた。

 

「まぁ、思いの外調略に手間取ってしまったのは誤算だったが……。」

 

 本来の予定通りならば秀忠着陣前に到着したかったのだが、秀忠と同時に着陣した。

 

「まぁ、幸いにも後方を守っていた池田勢は寡兵。我等の奇襲に崩れ去ったわ。さて、内府殿、どう出る?」

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