第64話 密談

「……傷は大丈夫ですかな?」

「ええ。勘助殿のおかげで助かりました。」

「……にしても……。」

 

 如水と三郎は会談をする。

 そして、如水と三郎の間には見覚えのある人物がいた。

 三郎から如水に譲られた医者、小寺勘助である。

 

「勘助……。まさか生きているとほな……。いや、今は小野寺ではなく、小寺、か。」

「ええ。小野寺勘助は、三郎殿のご配慮で死んだ事になっている。まぁ、あの時の側近には申し訳無い事をしたな。」

 

 三郎は頷く。

 皆に差し出された小野寺勘助の首はあの時付いてきていた側近である。

 皆が勘助の顔を知らないが故に出来た事であった。

 

「だが、我々を苦しめた小野寺勘助と黒田如水。その二人が生きていると分かればただでは済まない。如水殿は高齢故、見逃されるかもしれぬが、勘助はそうはいかぬでしょうな。」

「……にしても、小寺か。中々面白い事をしてくれるな。三郎殿は。」

 

 三郎は軽く笑う。

 

「うむ、中々面白いと思ってな。黒田に浅からぬ縁のある小寺。お前の元の名は小野寺。丁度良いと思ってな。」

「……その頭巾は、やはり顔を隠す為か?」

 

 如水の問いに勘助は頷く。

 

「あぁ。俺の事を知っている奴が少なくは無い。一応な。……で、まだしかと話を聞いていなかったが……何故俺を生かした?」

「……その事だが、お主等二人には頼みがある。」

 

 三郎は二人に向き直り、頭を下げた。

 

「どうか、秀信を支えてやって欲しい。」

「……それは、お主がやれば良いのでは無いか?」

 

 如水の言葉に三郎は頭を上げ、暫くの沈黙の後、首を横に振る。

 

「勿論、出来ればそうする。が、もし、俺が道を踏み外した時、お主達二人には秀信を支えて、織田家の再興の為に力を尽くして欲しい。」

「道を踏み外す?」

 

 如水は疑問を浮かべる。

 が、勘助は理解していた。

 

「……成る程。」

「何か分かるのか?」

 

 勘助は暫く考え、三郎を見た。

 そして、三郎は頷く。

 

「……俺は黒田官兵衛の生まれ変わりだ。だが、同じような境遇の人間が、もう一人いた。」

「……まさか、三郎殿が?」

 

 勘助は頷く。

 

「……一体誰の……。いや、待てよ……確か、長政が前に三郎殿はかの信長公に似た雰囲気があると……。……まさか!?」


 勘助は頷く。


「……織田、信長……様。」

 

 その言葉を聞き、流石の如水も動揺を隠しきれなかった。

 

「三郎殿が、信長公だと言うのか!?いやしかし……だとすれば色々と腑に落ちる。あの会談の時、生涯このような良い戦は中々無かったと言っていたのも……。」

「……何?」

 

 その言葉に勘助は反応する。

 

「……お主、人に精神年齢がどうとか言っておいてその有様か。」

「……いやぁ、面目無い。」

 

 その二人のやり取りに如水は違和感を覚える。

 

「……何やら、親しげだな?」

「あぁ、あくまで只の三郎として接してくれと言われてな。同じ境遇だし、歳も近いし、フレンドリーに接してる。」

「……ふれんどりぃ?」

 

 如水はますます疑問を覚える。

 

「……あー、友好的な、とかそう言う意味の南蛮の言葉だ。」

「……成る程。いつか未来の話も聞きたい物だな。」

「いつでも聞かせてやれるさ。さて、理解してもらえたならば、先程の申し出も意味がわかる筈。」

 

 如水と勘助は頷く。

 

「晩年、俺は中々荒々しく統治していた。多くの家臣が謀反を起こし、窮地に陥ったし、そのせいで死んだ。後悔はしている。が、若さ故の過ちを犯さないとも限らん。そうなった時の備えとして、いざという時の為に俺ではなく秀信の側で支えて欲しいのだ。」

「いざという時……。」

 

 如水の言葉に三郎は頷く。

 

「……それがどのような時かは知らん。俺もどういう時がその時か、判断つかんだろう。その判断はお前達に任せたい。どうか、秀信を支えてはくれぬか。」

 

 如水と勘助は見つめ合い、互いに頷く。

 

「勿論に御座りまする。この黒田如水。命を救われたご恩は忘れませぬ。」

「この勘助も、織田家再興の為に尽くそう。やはり、命を救われたからには、その恩は返さねばな。」

 

 三郎は深く頭を下げた。

 

「深く、感謝する。勘助殿。未来で得た医学の知識で如水殿、そして、秀信をよろしく頼む。」

 

 二人は頷く。

 すると、三郎は顔を上げる。

 

「さ、今日は三人で語り明かそう!積もる話もあるだろうしな!」

 

 この日、三郎と勘助、そして如水の三人は夜が開けるまで語り明かした。

 三郎は、心強い味方を得ることになった。

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