第154話 突然の使者

「ようこそおいでくださった。織田秀則殿、織田秀雄殿、そして織田有楽斎殿。まさか織田家の人間がわざわざ敵地までやってくるとは思いもしませんでしたぞ」

 

 伊達政宗は秀信からの和平の使者を受け入れた。

 秀則達からすれば敵地にたったの三人で赴いたのである。

 経験豊富、老練な有楽斎は動じていなかったが、二人は不安を隠しきれていなかった。

 

「……して、用は……」

「……和平の使者にございまする」

 

 すると、秀則が口を開く。

 不安を押しのけて、話し始める。

 

「我が兄、織田秀信は伊達政宗殿との和平を望んでおりまする」

「……理由をお聞きしても?」

 

 政宗は疑いつつ、聞く。

 

「は。ここ最近、戦が続き多くの者が亡くなりました。これ以上人死にを出したくないと。それに加えて此度の伊達殿の蜂起、要因は弟である三郎が原因にござりまする。その罪滅ぼしという意志もあるとのことにございまする」

「……」

 

 政宗は黙って話を聞く。

 

「もし、和平の話を受けてくださるのてあれば、条件さえ満たしていただければ此度ここに集まった者達も無罪放免とすると仰せにございまする」

「……条件とは? 我等は秀頼公と淀殿を亡き者とした。そう簡単な条件ではなかろう」

 

 秀則は秀雄に目配せをする。

 すると、秀雄は地図広げる。

 それは、大阪城の周辺図であった。

 そして、秀雄が話す。

 

「ここ大阪城の周りは川に囲まれておりまする。雨が多い時期には容易に氾濫するでしょう。それにここ大阪城は今は亡き太閤殿下の城。それを守るためにも堤防を築きたいと考えておりまする。その仕事を、此度ここに集まった者達にして頂きたいと、そういう話にございまする」

 

 その話を聞き、政宗は答える。

 

「……成る程。許す代わりに民の為、今は亡き太閤殿下の作り上げたこの大阪の地の為に力を尽くせ、と。そして集まった者達に仕事を与え、不満を無くすか」

「は。その通りにございます」

 

 政宗は暫く考える。

 

「暫し時を頂けぬか。一大事ゆえ、時が欲しい」

「……」

 

 秀則は有楽斎を見る。

 そして、有楽斎は頷いた。

 

「は。無論にございまする。ては、また後日お伺いいたしまする」

 

 秀則達は頭を下げると、その場を後にした。

 有楽斎は、最後まで政宗のそばに控える男、天海を終始見ていた。

 有楽斎は秀則から天海の正体を聞いていた。

 その為、有楽斎は最大限の注意をしていた。

 その視線に、天海は気付いていた。

 

「……皆、どう思う?」

「些か、分かりませぬな」

 

 すると、天海が口を開く。

 

「織田秀信からすれば我等は秀頼公を討った大罪人。それらを許すなど……ありえませぬな。皆の心が離れていく結果にも繋がります故」

 

 その天海の言葉に片倉景綱も続く。

 

「その通りですな。せっかくの大義名分が台無しになりますしな……しかし……」

 

 暫く考えた後、景綱は続ける。

 

「兵をさらに集めるのに、良い時間稼ぎとなるやもしれませぬ……向こうはどちらにせよ許すつもりは無いのでしょう。ならば、それに備えて更に兵を集めるのに良いかもしれませぬ」

「……うむ」

 

 政宗は頷く。

 

「その申し出受けるとしよう。どのような思惑であれ、すべて打ち壊して我らの天下としようではないか!」

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