第68話 三郎 帰還
「秀信!久しぶりだな!」
「三郎! 話は聞いておる! 良くやってくれた!」
三郎は論功行賞を終えるとすぐさま岐阜へ戻った。
そして、秀信と会っていた。
秀信は三郎を慰労するため、二人きりの酒の席を用意していた。
「あぁ、岐阜を離れていたのは数ヶ月だったが、色々なことがあったな」
「あぁ。関ヶ原が終わってすぐに大阪へ行き、そのまま九州へ、だもんな。平穏な岐阜は何年ぶりだ?」
秀信のその言葉に三郎は笑って見せる。
「数百年、かな」
「……そう言えば、三郎は何年後の未来にいたのだ?」
「そうだな……四百年程、か」
その三郎の言葉に秀信は笑う。
「そんなか。まるで想像がつかぬな」
「そうだろうな。今とは何もかも違う」
すると、秀信は思い出したかのように口を開く。
「そう言えば、宇喜多殿は八丈島に流罪らしいな。何故八丈島なのだ?それに、黒田の処遇が軽かったのに、宇喜多殿は……という声も聞くぞ」
「あぁ、今後、裏切ったらどうなるかを示すためにな。かつての五大老でも容赦は無いと知らしめておきたかった。それに……実はな、本来の歴史でもそうなんだ」
すると、秀信は驚く。
「そうだったのか!?……本来の歴史とやらも。今度しっかりと聞きたい物だな」
「未来の話も、昔の話もいくらでもしてやるさ。……それで、例の件はどうなった?」
三郎と秀信は酒を酌み交わしながら話し合う。
「……長久手の辺りで妙な噂を耳にしてな」
「妙な噂?」
秀信は頷く。
「赤鬼がいると言う噂だ」
「……それは、もしや……」
秀信は頷く。
「そうだ、井伊直政。松平忠吉と共に関ヶ原で戦っておった故、もしやと思い調べさせてな……。」
三郎は秀信の言葉に耳を傾け続ける。
「忠吉は、既に首であった。関ヶ原で負傷し、もはやこれまでと腹を切り、直政が介錯したそうだ。直政も傷を負っていた故、傷が癒えるのを待ちつつ、少しずつ江戸へ向かっていたようだ」
「……そうか。」
その言葉に三郎は落胆する。
「命を助け、忠吉を味方に引き入れようとも思ったのだが……無駄足だったか……」
「だが、もう一つ面白い発見もあった」
三郎はその言葉に少し考える。
そして、とある事を思い出した。
「……まさか、岡崎三郎か!?」
秀信は頷く。
「そうだ。お主の言った辺りを調べてみたらな、いたのだ。徳川信康がな。中々苦労した」
三郎はあからさまに笑顔になる。
「良くやった!これで徳川に対抗出来るぞ!徳川信康を徳川の次期当主に擁立し、徳川家中を混乱させる!行けるぞ、秀信!」
しかし、ハイテンションな三郎とは裏腹に秀信はあまり嬉しそうではなかった。
「……どうした?」
「……それが、既に遣いを出したのだが、まるで応じぬ。それで悩んでおった所にお主が来たのだ」
その言葉に三郎は頷く。
「成る程……。井伊直政はどうしてる?」
「一応、こちらで確保してある。どこにも逃げられぬように見張っているし、あの傷では逃げられもせぬだろう」
すると、三郎は動き出す。
「では、大阪から本多忠勝を呼び出そう。そして、直政と共に信康の説得に当てる」
「……あの二人がそう簡単に動くか?」
「動かす。信康を徳川の当主とし、三河や遠江等の徳川の旧領を約束する。徳川の家も潰さないと約束する。さすれば、話くらいは聞いてくれるだろう」
すると、秀信は頷く。
「流石だな。交渉の席にさえ立たせれば、三郎ならば何とかなるだろう」
「あぁ、それに今回は心強い味方がいるからな」
すると、三郎と秀信の部屋に二人の男が入ってくる。
「黒田如水と、その生まれ変わり。つまりは俺と同じ立場である小寺勘助だ。交渉事ならば、この二人に叶うものはおらん」
すると、秀信の動きが止まる。
「……急すぎて……ついて行けんな……」
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