第78話 江戸城潜入 そして

「止まれ!中身を確認する!」

 

 江戸城に兵糧を運び入れようとした所、荷物を改められる。

 

「何もありませぬ! 早く通してくだされ!」

 

 三郎は商人に変装し、江戸城に入り込もうとする。

 兵糧を売ろうとしているのだ。

 

「……怪しいな。何かやましいものでも入っているのではないか!?」

「な、何を申されるか!」

 

 門番は他の者に中身を改めるように指示をする。

 そして、兵糧を運んでいた荷車の中身を確認される。

 

「……何も無いな」

「だから言ったでしょう! 商売は時間が勝負! 無駄な時間を取らせないでくだされ!」

 

 三郎はそう言うと虎助達に早く荷物をもとに戻すように言う。

 

「このような仕打ちを受けるのならば、この米は豊臣方へ売りましょう! 二度と徳川へは売りませぬ! おい、引き上げるぞ!」

「ま、待たれよ! それ程の兵糧。手に入れられなかったとあってはどんな処罰を受けるか分からん! どうか穏便に済ませてはくれぬか?」

 

 その門番の申し出に三郎は渋々頷く。

 

「……では、今後は荷物を改めること無く通してもらいましょうか」

「そ、それは……」

「……では、これにて。御縁が無かったと言う事ですな」

 

 三郎は頭を下げてその場を後にしようとする。

 

「待て! わ、分かった! そうしよう!」

「……ありがとうございます。この文様が入った服を着ているものは我等の手の者。この後も続々と入ってきまする。荷物を改めること無く速やかに通して下され」

 

 門番は頷く。

 三郎達はそのまま江戸城内に入っていった。

 

「虎助」

「は」

「手筈通りに」

 

 虎助は頷く。

 そして、虎助は城門の近くに残った。

 三郎達は暫く城内を進む。

 

「お主ら、米を売りに来た商人か?」

「はい」

「うむ、これから通す間にて少し待て。荷物は一括して保管する。案内しよう」

 

 他の案内人が米の入った荷車を押す者達を案内する。

 三郎達は案内人の後をついていき、通された間にて休む。

 

「今担当の者は他の商人の対応をしている。少し待て」

 

 そのまま案内人はその場を後にする。

 大垣衆と三郎達は暫しの休養を得た。

 

「さて、ここまでは順調」

「……太郎様」

 

 大垣衆の者が喋ろうとした所を三郎が止める。

 

(どこで誰が見聞きしているか分からん。発言には気を付けろよ)

 

 大垣衆の男は頷く。

 

「後はどれだけ高値で売れるかですな」

「あぁ。徳川は米を欲している。すでに大量にあるだろうが、これほどの量を欲しがらない訳が無い。適正価格でも十分だがな」

 

 三郎達は暫らく待った。

 すると、一人の男が現れる。

 

「お待たせ致した。この度対応させて頂く南光坊天海と申します」

「っ!」

 

 まさかの人物の登場に三郎は反応してしまう。

 が、なんとか抑え、平常心で当たる。

 

「太郎にございます。この度は兵糧がご入用との事で、いささか高値で売りつけたく参りました」

「……ほう、面白いお方ですな」

 

 南光坊天海の顔をしかと見つめる三郎。

 そして、三郎は理解した。

 

(やはりか……)

 

 その顔を忘れるわけが無かった。

 たとえ信長としての記憶を無くしてもそれだけは忘れないだろう。

 この男の、顔だけは。

 

(生きていたか……明智光秀!)

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