第66話 宇喜多の末路

「……金吾が死んだか」

 

 宇喜多秀家は西の情勢の報告を受けていた。

 既に黒田は降伏し、四国からは鍋島直茂、加藤嘉明、藤堂高虎、生駒、蜂須賀らが攻め寄せつつある。

 東からは約定を破った小西。

 西からは毛利。

 もはや成すすべは無かった。


「宇喜多殿。なりませぬぞ。まだ希望は潰えておりませぬ」


 宇喜多秀家の眼の前には渡辺新之丞がいた。

 宇喜多秀家に徹底抗戦の訴えをしに来ていた。

 

「しかし、このままでは我が宇喜多は……」

「降伏した所でお家は取り潰されまする! しばし待てば東で兵が上がりまする! それまでの辛抱に御座いまするぞ!」

「だが、これ以上兵を無駄に死なせるわけには、行かぬ」

 

 すると、宇喜多秀家は新之丞の後ろに目配せをする。

 その次の瞬間、新之丞の後ろから宇喜多家中の者が入ってくる。

 そして、新之丞を取り押さえる。

 

「こ、これは!?」

「……お主は危険だ。お主のせいで全てを失う事になる」

 

 宇喜多秀家は刀を抜き、その切っ先を新之丞に向ける。

 

「二度と儂の目の前に姿を表すな!」

「お、お待ちを!もう間もなく、間もなく東で兵が上がるのです!」

 

 新之丞は引きずられながらも叫び続ける。

 

「……そう言っておいて、未だにその兆しは無いでは無いか……」

「宇喜多様!」

 

 新之丞はそのまま城の外へと連れ出された。

 

「ちっ! このままでは織田の好きにされてしまう!」

「渡辺殿。如何でしたか」

 

 新之丞の目の前に現れたのは大谷吉治であった。

 後世に大谷吉継の子として伝わっており、養子か実子かはたまた弟か、定かではないが、実子の説が有力とされていた。

 事実、大谷吉治は関ヶ原を脱した後、佐和山に入り、難を逃れていた。

 

「やはり、駄目でござった」

「……小早川は死したが、織田が残っておる。ここで諦めるわけには行かんぞ」

 

 そして、石田正継と石田正澄の二人が渡辺新之丞と共にいた。

 反織田勢力として、西で活躍していた。

 新之丞が黒田を唆していた間も宇喜多秀家に与して戦を繰り広げていた。

 

「……ここは、小早川を討ち取れただけでも良いと致しましょう。宇喜多殿は恐らく降伏するでしょう。早いうちに東へ逃れましょうぞ」

「しかし、どういたしますか? 海は既に封鎖されておりまする」

 

 石田正澄の言葉を受け、新之丞は考える。

 

「我らの手勢はバラバラに東へ向かわせましょう。戦から逃れる民に紛れてここを脱しましょう」

 

 三人は頷いた。

 

「では、参りましょう。まだまだ我らの目的は果たされておりませぬ。必ずや、仇を取りましょうぞ!」


 西を抑えたのは豊臣方ではあったが、元凶はまだ残っていた。

 三郎達にはまだまだ苦難がのしかかる事となる。

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