take・3

「明日、朝7時に絶対起きてろよ」

「何で?」

「アタシが迎えに来てやるからだよ」

「いやいらんけど」

「お前・・・、マジで殴るぞ」

「え?やめてください」

「いいから、迎えに来てやるから有難くちゃんと起きてろ」


マジでこいつの考えが読めん。明日は確かに転校初日という、学生にとっては大事な日かもしれない。けれど、友達がどうとか未だかつて俺は気にした事がない。

特に苦労したわけでもないし、一人でいるのも嫌いじゃないので別にいなくても全然平気だ。というか、前の学校では結構ボッチだったぞ。


「いくら転校初日だからってそんなに気を使ってくれなくていいぞ。ガキじゃないんだし、適当に済ませられるさ」

「でも、場所よくわかんないだろ。アタシが案内してやるから、だから朝7時だからな」

「いや、大丈夫だって」

「車で迎えに来てやるって言ってるんだよ。楽ちんでいいだろ」

「いや歩いた方が俺は健康的でいいと思うのだが・・・」

「・・・、だぁぁぁああああ!!!もういい!!!お前なんか一生迎えに来てやんないからな!!!覚えとけよ!!!」

「お、おう・・・」


何だか機嫌を損ねてしまったようだ。どんだけ楽したいんだアイツは・・・。お嬢様め。ていうかアイツだって新入生だろ。自分の心配しろ。

ブチ切れたその後は何故か誰かに電話をしていた。俺にいじめられたとか親に言うのだけはやめてくれ。俺自身の親に俺がしばかれかねん。

二階の俺の部屋からどこへ行ったかと思ったら、早生は一階のリビングの隅で小さくなっていた。俺はそれを見て、ふと昔の事を思い出した。


小さい頃、俺がお化けが怖くてトイレに行けない早生を煽りまくって、その結果早生が泣くわ怒るわで騒ぎまくり、挙句の果てに間に合わなかった。

結局俺が翌朝両方の親に叱られて、それから一ヵ月毎日咲川家の風呂掃除をやる事になった。なんて事があった。


あの時は、次の日の朝早生がショックで小さくなってたのを、俺が全力で謝って何か変な事を言って笑わせるか何かしたような気がする。まぁ、そんな毎回上手くいくとは思えないが・・・。


「なんだよ、何でそんなに俺と行きたがるんだよ?別に二人一緒じゃなくてもなんの問題も無いだろ?」

「うるさいな・・・」

「あ?」

「うるさいなって言ったんだよ!!!もうどっか行けよ!!!」

「どっかって、ここ俺んちだからな!?何キレてんだよ!?」

「悪いかよ!!!一人で不安じゃ悪いのかよ!!!善樹と一緒じゃ悪いのかよ!!!二人で一緒に学校行って何が悪いんだよ!!!、私と一緒はそんなに嫌なのかよ!!!」


目にいっぱいの涙を浮かべて早生は俺に噛みついて来た。必死に訴えてくるその瞳に、俺はまた昔と同じような事をしてしまったのだと気づいた。


「いや・・・、別に俺は・・・、そ、そんなつもりじゃなかったんだよ。べ、別にお前と一緒が嫌なワケ無いだろ!?、お前に会えるから引っ越してきて良かったって言ったじゃないか。ただ・・・、その・・・なんというか、周りの目もあるし、お前にもなんか変な噂立てられたりしたらあれかなぁ~とか、なんか恥ずかしくないかなぁ~とか、な?」

何とか俺も必死に答える。


「アタシのこと心配してくれたのか?」

「そーだよ!そーだとも!」

動揺を隠せない俺の手が、小刻みに震えてくる。


「でも別にアタシは気にしないぞ、幼馴染だし。噂なんてクソ食らえだ」

「そ、そうか。そうだな、ははは」

「うん。むしろ善樹とならアタシは・・・」

「ん?なんだ?」

「なんでもない・・・」

何だか久しぶりに女の子な早生を見た気がする。今じゃ毒しか吐かない獣みたいな奴だが、昔はずっと俺の傍を離れなかったおとなしい可愛い女の子だった。

すぐ泣いて、弱っちくて、でも笑顔だけは特別輝いてた。それが何故・・・。


「おい、何か今すっげぇ殴りたいんだけど一発いいか?」

「ダメです」

たまにエスパーなのかと疑いたくなるレベルの能力を発揮しやがるのが本当に恐ろしい。

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