take・68
何だか久し振りの一人の夜。
最近はほぼ毎日誰かしら来ていたり、早生の家に世話になったりしていたので、とても静かで、多少の寂しさがあった。
「今までずっと一人だったんだけどな・・・。慣れとは恐ろしいものだ・・・」
ブツブツとレトルトカレーに話しかけながら、テレビも点けずに独り身タイムを謳歌する。
「早生に着られるビキニって存在するのか・・・?」
訳の分からない独り言を吐いていると、手元にスタンバイさせておいたスマホが約束通り音を鳴らす。
「もしもし」
「もしもし。こんばんは田中丸君。今大丈夫?」
「あぁ、飯食ってる」
「そっか。ごめんね、時間作って貰っちゃって。何か予定とか無かったの?」
「友達ゼロの一人暮らしに予定なんてモノは無いな」
「なら・・・、良かった」
普段面と向かって堂々と話しているのに、顔が見えないだけで妙な気恥ずかしさがあるのは何故だろう。
他愛も無い会話の端々に感じる、何となくだが安心感というか、いつの間にかぺらぺらと無駄話を重ねてしまう。
でもそれに関しては、向こうも文句は言えない。
結局、電話をしてきた事に特に理由は無く、いつも通り「何となく」で済まされてしまった。普通の男子だったら、スマホを床に置き、その前で正座してステイの案件だと思うのだが、彼女は同世代の異性の情報は疎いらしい。
逆に詳しくてもキモいけど・・・。
「そうだ、田中丸君さ、棕櫚さんにスクール水着貰ったんだよね?使用済みのやつ」
「あ・・・、あれは・・・、あの方が一方的にですね、送ってこられた品であって、決して私が所望した訳では決して無いのですよね・・・」
「それで咲川さんに没収されちゃったんだ」
「まぁ・・・、はい・・・」
「それでなんだけどさ・・・、女の子の水着・・・、欲しいの?」
「はい・・・?」
「いや・・・、好きなのかなぁ・・・、って・・・」
「そりゃまぁ・・・、俺も一端の高校生男児だし?好きか嫌いかと問われたらまぁ・・・、好き・・・、かな・・・?あ、見るのがだぞ、決してクンカクンカしたいとかそういう変態的な性癖はないから安心してくれ」
「さっきから明らかに口数が増えてて余計にそれっぽいけど」
「で?何でそんな事聞くんだよ?」
「ん?いや、没収されて悲しいとか言ってたからさ、私のでよければ今日着てた水着、あげようかなって・・・、いる?」
俺、それに関しては何も言った覚えない無いけどね。悲しいとか言ってたの蜜鎖さんだけどね。
「田中丸君?」
「いります。是非頂こう」
「まだ洗ってなくて・・・、濡れてるし塩素とかちょっと匂いするけどどうする?」
こちらの注文にも応えてくれるのか・・・⁉
「何か・・・、濡れてるのはちょっとあれなんで・・・、出来れば洗ってもらえると・・・」
「分かった。洗って今度持ってくね」
いいんだろうか・・・。これは果たしていいんだろうか・・・。
でもお金払ってとかじゃないし、向こうから言ってきたんだし、クラスメイトだから問題ないない。
「え~っと・・・、湯川は今何してるんだ?」
「今お風呂入ってるよ」
「・・・・・・」
「田中丸君?」
以前、俺の家に初めて湯川が来た時の記憶が、脳内で鮮明に再生される。
そしてこの前の早生の家の風呂を一緒に入ったあの時の記憶。
二つの記憶をもとに、俺の脳内で今湯川がどんな格好でどんな状況なのかを分析、推理していく。
「今、裸なのか?」
「お風呂だから当然そうだけど・・・、何かそんな質問前にもされた気がするんだけど気のせい?」
「あぁ気のせいだ。で、どうなんだ?」
「だから裸だよ。体洗ってるよ」
「そうか、ならいいんだ」
「そのハリウッド俳優みたいなの気持ち悪いからやめてくれない?」
「その言い方だとハリウッド俳優が皆気持ち悪くなってしまうぞ」
「その原因を作ったのは田中丸君だから、私は悪くないよ」
「そうか、ならいいんだ」
「じゃあね」
「すいませんでした許して下さい」
「なんかまた変な事聞いてきそうだから、一旦お風呂出てからまたかけなおすね」
そう言って、唐突に切られる電話。
でも、風呂入りながら電話かけてきたのは湯川の方だと思うのだが気のせいだろうか。
「明日の予定なんだけどさ、十時からで大丈夫?」
あの後、二十分ほどしてからしっかり湯川から電話がかかってきた。
そして先程話していた事は全く覚えていません的な雰囲気で、明日の予定の話をしてくる。
「もう少し、楽しませてくれても・・・、いいだろ?」
「日曜だからさ、部活も基本やってないみたいだから校長先生が鍵開けに来てくれるんだって」
「もう少し、俺の話聞いてくれても・・・、いいだろ?」
「今のところ聞く価値が無いかな」
いつもに増してキツめの反応ですね・・・。
「別に俺は予定無いし、後は二人次第だな」
「あ、もう二人は行くって。二人共そっちが行くなら行くってさ」
どんだけ血の気が多いのだろうか。戦闘狂だな。
「十時とは中途半端な時間だな。校長の都合か何かか?」
「ううん、私が頼んだの」
「何でまたそんな時間なんだよ?」
「明日の朝、田中丸君の家に寄ってもいい?」
「え?そりゃ・・・、別にいいけど・・・、何で?」
「秘密」
「そんな危険な人物に自宅への侵入を許可したくないんですけど・・・」
「私が急に暴れ出しそうな人に見える?」
「今は・・・、電話越しでちょっと見えにくいのですが・・・」
「ちょっとは見えてるんだ」
「まぁいいや。じゃあ起きとけばいいんだな」
「うん。八時頃行くね」
「早いな⁉」
「さっきから文句が多いよ田中丸君。そういう事ばっかり言ってると、明日の朝起きたら私が馬乗りになったりしてるかもよ」
「何それ楽しみ」
「なんか今日の田中丸君気持ち悪いよ」
女子に「気持ち悪い」と言われて喜ぶ男子がいるという。
お、俺は違うぞ。絶対に違うゾ。
「じゃあ、おやすみ。また明日ね」
「あぁ、また明日な」
画面が消えてからも、俺はスマホの画面をジッと眺めていた。
他の二人とは違って、静かに終わったとかそんな安堵感に浸っているとか、そういう訳じゃない。
不思議とまだその時間が続くような、またあのローテンションがスピーカーから聴こえてきそうな、何となくそんな気がしただけだ。
また明日、あのどうでもいい時間を、待てばいいだけの事だ。
「何かうるせぇな・・・」
人が物思いに耽っているというのに、俺のスマホをしつこく鳴らす不届き者がいるようだ。
「おい、早く出ろよ」
「うるせぇな、出てやったじゃねぇか」
「ツーコール以内に出ないと失礼なんだぞ」
「お前は取引先か何かか?」
「まぁ、アタシに貸ししかない事は確かだな」
「借りもたんまりとあるだろうが」
「貸しで全部上書きされてんだよエロがっぱ」
「誰がエロがっぱだ」
「お前、今日栞の乳めっちゃ見てたろ。棕櫚蜜鎖が半ギレだったぞ」
「それはあれだ、あんな立派なモンをこさえている湯川が悪い」
「うわ、キモ」
「キモくて結構。俺は忙しいので切るぞ」
明日は朝早くなったので直ぐに就寝せねばならん。
こんな事をしている暇は無いのである。
明日湯川が一体何をしてきてもいいように、防弾チョッキとか用意しないといけないからな。
「おい待て、明日十時だってよ」
「そうか、分かった、おやすみ」
「本当に分かったのかよ。おや」
ブチッ・・・・・・。
プルルルル、プルルルル。
「喧嘩売ってんのかクソガキ」
「テメェこそアタシが言ってる途中で切ってんじゃねぇよ無脊椎動物‼死ね‼」
ブチッ・・・・・・。
だから言ったんだよ。他の二人は静かに切れないのさ・・・。
ちなみに俺はちゃんと聴覚ありますよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます