take・67
「なぁ、栞ってさ、なんか善樹に対してゆるくないか?」
「だから前々から危ないって言ってるじゃない」
「でもさ、あいつアタシにも優しいし、なんか適当な感じするから、好きって事は無いよな?」
「その実にからっぽな何の根拠も無い推理は、果たして正しいと言えるのかしらね」
夜十時、ここに悩める年頃の女子が二人。
いつもはライバルだが、互いに情報交換は欠かさない、仲良しさんだったりする。
「私は違うけれどね」
「何が?」
「いいえ。こっちの話よ」
「何だよ、教えろよ。折角電話してやったんだから話せよ」
「電話してやった?貴方が帰りの私の車に乗り込んできて「今夜時間あるか?」って言ってきたんでしょ?だからこうやってその時間を作ってあげたのよ。ふざけた事言ってると切るわよ。貴方の両手中指と一緒に」
「お前だって、湯川の事気にならないのか?」
「私は別に善樹君はモテて当たり前だと思っているから、何も焦ったりはしてないわ。むしろ自分の男が私の為に他の女を振るのを見るのは大好物よ」
この女は天然記念物に指定してもいいと思うくらいに稀有な存在であると、早生は恐怖さえ覚えた。
「少し行動や言動に危険なものを感じる時はあるけれど、焦る程じゃないわ。貴方に対しては「気を付けなさい」と言っておくけれど、私自身は別に全然何の問題も無いわ。今頃善樹君は、今日の私との激しいプレイを思い出して、一人でしている頃よ」
「はいはいそうですね。あぁ~・・・、腹減った、ピザ食べたい」
「こんな夜中にデブとか、まるでピザと同じ発想ね」
「ピザの事デブって言うのやめろ。あとデブの事ピザって言うのやめろ」
「もう寝るわ。おやすみなさい」
「もう寝るのかよ。早くないか?」
「会話に飽きたのよ。察しなさい。そしてお子様はもう寝なさい」
「はいはい」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「き、切りなさいよ」
「あ、そうだ、善樹来ないんだけど・・・」
「あぁ、あれは冗談よ。ていうか信じていたの?全く・・・、本当におめでたい脳みそしているわね貴方って。切るわよ」
「おい待て‼じゃ、じゃあ一体何の話してたんだよ⁉」
「それは・・・、秘密よ」
絶対にエロい事だ、と早生は今までの経験からして間違いないと思った。
「それは・・・、善樹が喜びそうな事なのか?」
「そうね・・・、って言わないわよ。貴方には関係無いわ」
「アタシにも可能な事なのか?」
「教えないわ」
「じゃあ善樹に聞こうかな」
「やめなさい。聞いたとしても彼にウザがられるだけよ」
頑なに言おうとしない蜜鎖に対して、早生は最近、対抗策を編み出しつつあった。
「じゃあ、教えてくれたら善樹の昔の写真やるよ」
「‼」
「赤ちゃんの頃のだってあるぞ。アタシの親同士はずっと前からマブダチだからな。お互いの子供の写真はたんまり持ってるんだよ。何かある度に祝い合ってたからな。今もそうだし」
「・・・、いいわ。その代わり五枚はもらうわ」
「分かった。後で適当に持ってく」
「何よ、選ばせなさいよ」
「自由選択権まで付いてくると・・・、五枚じゃ多いな」
「何?貴方私に頼んでいる立場でしょ?そんな事言っていると教えないわよ」
「・・・、じゃあいいや。どうせエロい下らない事だろ。その時に対処すればいいわ」
「ちょっと・・・、写真は?」
「いや、別にもう聞かなくても良くなったから。だから言わなくていいし写真もあげない」
「それとこれとは話が別じゃない⁉」
善樹の事となると、棕櫚蜜鎖は知能指数が格段に低下する。
既に脳内は田中丸善樹のお宝画像を入手する事で五百パーセント満たされていた。
「じゃ、じゃじゃじゃあもういいわ。善樹君に私が話していたのは「布だけ溶かす薬」の話よ。明日それを持ってくるから欲しいか聞いたら「いらない」って言われたのよそれだけよ‼さぁ教えたわよ‼早く善樹君の写真をよこしなさい‼今から貴方の家に取りに行ってもいいわ‼」
最早異常者である。普段はあんなに大人しいのに・・・。
早生は蜜鎖のそんな大人な部分に多少の憧れすらあったのに・・・。
ここまで電話越しで鼻息を荒くされると、何だかこの話を振ってしまった事が申し訳なくなってくる。彼女の事も考えて、早生は早生自信が少し大人になろうと考えさせられたのであった・・・。
「うん・・・、あげるから、後でいいから家来いよ」
「本当⁉本当なのね⁉嬉しいわ‼今から行くわね‼」
勢いよく畳みかけ、ガン無視で夜中に来訪。
テンション爆上がりで写真を吟味する事三時間。
目がギンギンにキマッた状態で最初のテンションを保ったまま、スキップで帰っていった。
現在深夜二時。早生はその夜、善樹に苦しめられる悪夢を見た・・・。
「うぅぅ・・・、ごめん・・・、なさい・・・」
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