take・66

黙々と作業を進める事四時間。

少々冷える中、きちんと自分の服で寒さ対策をし(一人を除いて)、俺自ら全体に睨みを利かせながら、プールの内壁、底、排水口や溝に至るところまでしっかりと磨き、遂に清掃完了の時を迎えた。


「お疲れ」

「軽いな」

「流石に疲れたわ。善樹君、おんぶ」

「校長先生に報告してくるね」


辺りは既に薄暗くなってきている。部活をしていた生徒達も既に帰っているようだ。休みの日までフルに活動したのはいつぶりだろうか。あ、俺達も一応部活だった・・・。


「湯川が戻ってきたら、着替えてもう帰ろう」

「そうね」

「善樹、今日ウチに泊まるだろ?」

「初耳なんだが」

「今決めた」

「なら私も行くわ」

「じゃあ私も行こうかな」


いつの間にいたんですか湯川さん。


「校長先生明日確認するから今日はもう帰っていいって。あとこれ、校長先生から」


湯川が抱えたビニール袋の中には、大量のお菓子と、デカい水鉄砲が入っていた。


「あの校長、意外にガキだったんだな」

「俺達に何とか合わせてあげたかったんじゃないか?」

「だとしたら高校生を舐めているわね」

「まぁ、有難くいただこうよ。あ、プールは明日入っていいって。そこでこの水鉄砲使ってくれってさ」


布を溶かす液体とか付けてくれたらもっと良かったのになぁ~。


「善樹君」

「何だよ?」

「布だけ溶かす魔法の薬、欲しくない?」

「棕櫚さん流石っすわ」

「内緒よ♡後で私といい事してくれたらあげるわ」

「じゃあいいや」

「何で⁉酷いわ善樹君‼」

「ん?どうした?」

「え?いや、別に何でもないわ。善樹君が今夜咲川さんに夜這いを仕掛けようとしてたのを聞いていただけよ」


言い訳の方向性が全く分からん。


「なッ、なななななんにを考えているんだよお前ッ‼あ、アタシはまだ・・・、心の準備が・・・、その・・・」


あぁ~・・・、メンド。


「うん、楽しみにしとけ」

「へ⁉ほ、本当か⁉」

「うん、ホントホント」

「おぉ~、やるねぇ~」


いつの間にか着替えていた湯川さん登場。

そして先程のセリフは、スマホを見ながら適当に発していた事が判明。

いなくなった後と前で会話にそのまま参戦できるとか、最早才能だぞそれ。


「じゃあ解散‼」

「え?一緒に着替えましょ?善樹君♡」

「こっちに来い痴女っ子」

「じゃあ湯川、お疲れ」

「田中丸君、私待ってるから、一緒に帰ろ?駐輪場で待ってるから」

「え?あぁ・・・」


何故駐輪場なのか。ひとまず行ってみなければ分からない。

急いで支度を済ませ湯川の元へ向かう。


「どこだ・・・」

「田中丸君、こっち」


裏門の陰に隠れる形で、湯川は壁に寄りかかっていた。


「何で裏から出てくんだよ?」

「だって、あの二人が絶対にうるさいもん」

「まぁ・・・、そうか・・・?」

「うん。よし、帰ろ」


俺の腕を軽く掴み、しっかり辺りに二人がいない事を確認してから、湯川は歩き出す。特に交わす言葉も無く、学校から離れていく。湯川は一度も振り返らないまま、ずっと歩き続ける。

そして、俺の家の前に着いた時、ゆっくりと振り返り・・・。


「今夜、電話するね。話したい事があるから」

「何で帰り道で話さなかったんだよ?」

「あぁ~、それは・・・、あれだよ、ちょっと・・・、恥ずかしいし・・・」

「そう・・・、なのか」

「うん。だから、夜電話、出てね。それじゃ」

「おお、じゃあな」


いつも見る後ろ姿。高校に入ってまだ半年くらいだが、慣れるのは早いもので、いつの間にかこれが普通な感じがしている。

別にだから何だという訳じゃないが、強いて言えば、湯川の後ろ姿を見送ることが、俺が一日頑張ったご褒美のように感じている。と、いう事だろうか。

いい夢見ろよ。

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