take・65

「あれ、誰かプール掃除なんてしてるぞ」

「え?、マジじゃん、って二年の棕櫚さんじゃね⁉しかもビキニで⁉」

「マジ⁉ビキニで⁉」


野球部員AとBとCがお出ましである。邪魔だから帰ってくれ。


「おい見ろよ。やっぱいい乳してんなぁ~。けしからん、本当にけしからんよあれは。もう今ここでやれるわ」

「ホントそれな」


最低なクソ野郎共の称えたくなるクズ発言に、我が部の切り込み隊長が打って出る。


「おい‼作業の邪魔だ‼部活が終わったなら早く帰れ‼」

「何だコイツ?ぺちゃパイだぞ」

「ロリパイだ」

「ぺたんこだな」

「お構いなく」


言われたい放題である。俺もちょっと鼻で笑ってしまったである。


「ぐぬぬぬぬぬ・・・、お前らぁッッッッ・・・」

「どうしたの?喧嘩は良くないわよ」


涙目な一年生の元へ、お待ちかねの二年生が満を持して登場する。


「棕櫚さん、いいですねそのビキニ‼しゃ、写真いいですか⁉」

「それはちょっと困るわ。それに、今は大事な部活中なの。申し訳ないのだけれど、  今日は皆さんも疲れているだろうし、勘弁してもらえないかしら?」

「は、はい‼喜んで‼」

「ありがとう」


甲高い雄たけびを上げながら、男衆は帰っていった。

聖母様の人気は健在だと言わんばかりに、フンッ、と胸を張って自信満々に振り返った聖母様は、戻るや否や眉間にしわを寄せデッキブラシを太もも使いへし折った。

どこの球団の助っ人外国人の方でしょうか・・・。


「善樹く~ん、好き。好き。大好き♡愛してる♡あぁ~、吐きそうだった。何あれ?生き物?同じ世界の物体とは思えなかったわ」


それくらいにしようね聖母様。


「あ、ありがと・・・、棕櫚蜜鎖・・・」

「別に気にする事じゃないわ。善樹君以外の生物に汚らしい目線を向けられるのが嫌なだけよ。善樹君になら、毎日汚物を見るような目で蹴飛ばされて、夜な夜な立てなくなるまで無理やり犯されても全然苦じゃないわ」


そんな日は、絶対に来ないと思います。俺が来てほしくありません。


「よし、邪魔もいなくなったし、再開するぞ。あと少しだからな」

「あれ、でもまだいるよ?」


少し距離を置いたところに、何やら異様な雰囲気を漂わせる二人組・・・。


「あれは、一年の咲川早生氏であるな」

「さよう。あのビジュと裏に隠されたエモカワキャラ。実にデュフいですな。私のパトスがヒシヒシたぎりを感じさせておるのは決して抗えない事実。まっこと雅でござるでしかし」


もうキャラが渋滞し過ぎて直接変換不可能である。


「あのピタパイがとてつもなくそそるでおますなしかし。親しみやすさの中にやんごとなき雰囲気すら感じさせるあれは正に芸術‼」

「静粛に‼静粛に‼いやいや静粛に‼それはもう確定演出でござるよ‼」


早生さんの顔が青ざめていくのがしっかり分かる。

それを全く気にしていない蜜鎖と湯川の「絶対に関わりたくない」という気持ちがしっかり伝わってくる。やれやれと、そろそろ助け舟でも出してやるかと思ったその時、やんごとなきお嬢様が自ら動いた。


「ジイ、頼んだ」

「かしこまりました」


自らは動いてないかもしれない・・・。

執事は素早くスマホを取り出し電話を掛ける。そしてそれを早生に手渡す。


「あ、お父さん?うん、アタシ。へへへ。あのさ、頼みがあるんだけど。うん、写真送ったからさ、後はジイに聞いて?うん、よろしく。うん、ありがとう。またね。はい、ジイ」

「お電話変わりました旦那様。はい、この写真の者達がお嬢様と善樹様に、はい。かしこまりました。直ぐに調べて処理いたします。はい、抜かりなく。かしこまりました。では、失礼いたします。よし、やりなさい」


執事の合図で、早生のSP達がイタい二人組を取り囲む。


「な、何でござるか⁉まさかあの計画がもう⁉」

「くッ、既に退路は経たれたという訳かッ‼か、覚悟は出来ているでござるよ‼本家相伝の術式を今ご覧にいれようぞ‼」


ここまで出来れば完璧ですよお兄さん達・・・。

あっという間に黒のハ○エースに積み込まれ、どこかへ出荷されていった。


「あぁ~あ・・・、大丈夫なのあれ?」

「俺に聞くな」

「可哀想に咲川さん。あんなに体の事を理解してくれて、評価もしてくれている友人を失ってしまうなんて。全く、愚かなのはどちらかしらね」

「うるさいうるさいうるさいッ‼何がペタンコだ‼何がぺちゃパイだ‼ロリパイがなんだっていうんだ‼胸なんか無くたって善樹は私に夢中だってのバァァカァァッッッ‼ハッハッハッハッハッハッハッハッ・・・、ハッハ・・・、ハハ・・・、ハハハ・・・、あぁ・・・、あぁ・・・」


早生さんが、おバグりになられました。

まるで自分の犯行を全て暴かれた黒い人のように、天を仰ぎ、両手を広げて、涙を流しながら高笑いをかましている。しかしまだ、それだけでは劇場版までは遠いかもしれない。まだ精々二時間SPといったところか・・・。

いや、そんな事を言っている場合ではないか・・・。


「早生・・・、さん・・・?」

「う・・・、うぅ~・・・、善樹・・・、善樹ぃ~‼うぅぅあぁぁッッッ~~~‼」


泣きじゃくる幼子を、優しく抱き締める俺・・・。

意外とうるさかったのでボリューム下げてほしい。


「おぉ~、よしよし。大丈夫だ、お兄ちゃんが付いてる、お兄ちゃんが付いてるぞ~」

「今はね。それと私のお兄ちゃんだけどね」

「凄い棒読みだねぇ~」


誰もまともに介抱しない現場だが、介抱される側はやはりチョロい。


「お兄・・・、ちゃん・・・。頭・・・、なでろ」


握り潰したろうか。


「よしよし」

「よしよし善樹」


コイツのサイズならそこのデカい排水口から流せるな・・・。


「ほら、もういいでしょ。じゃりン子は早く離れなさい。これからは大人の時間よ」

「まだ昼過ぎだけどね」

「ほら、掃除やるぞ」


何回このセリフを言えば、今日を終えられるのだろうか・・・。

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