take・58

「善樹と何話してた?」

「あ、やっぱり起きてたんだ」


湯川は適当に返事をし、ベッドに入る。


「おい、寝るな」

「え~、疲れたから寝かせてよ」

「今絶対寝ていいタイミングじゃないだろ」

「何そのタイミング?」

「アタシが話してるだろ‼」

「後でもいい?」

「ダメに決まってんだろ‼」


既に半分寝ている湯川に対し、早生が何とか噛みつく。


「風呂で何してたんだよ?」

「ただ話してただけだよ」

「何の話してたんだよ?」

「部活とか、クラスの話とか・・・、かなぁ?」

「何だその曖昧な感じ」

「だからそれくらいどうでもいい話しかしてないよ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」


少しの沈黙を挟んでから、早生がふと窓の外を眺め、口を開く。


「ずっと、一緒だったんだよ」

「え・・・?」

「善樹とはさ、小さい頃からずっと一緒で、親も仲良くて、いつも同い年の女子じゃなくて善樹と遊んでた。だから楽しい事も辛い事も、全部一緒に過ごして来たんだよ。それをあの棕櫚とかいう女が横から入ってきて・・・、一緒にデートに行ったりして、一緒に寝たりとか、何だかアタシから離れていってるような気がして・・・」

「・・・・・・」

「もうアタシの事なんて、興味無いのかな・・・」

「・・・・・・」


この時湯川は気付いてしまった。そして、思ってはいけないと分かっていながらも、思ってしまった。

コイツ、重いと。


「そんな事・・・、無いと思うけどな」

「何でそんな事言えるんだよ?」

「だって、この前田中丸君と買い物行った時、「これ早生が言ってたヤツだ」とか、「これ早生好きそうだな」とか、ちょこちょこ言ってたよ」


出来る限り刺激しないように、適度なフォローを流れるように繰り出していく。


「そう・・・、なのか・・・?」


予想通りの反応に、湯川は心の中で失礼だと分かってはいるが簡単な女に安堵する。


「うん。だから田中丸君が咲川さんの事、もう興味無いなんて事は無いと思うよ」

「ま、まぁ、アイツがアタシ無しで生きていく事なんて、出来るワケ無いしな。今回は許してやるとするか」


こんな事で大丈夫なのだろうかと、まだ出会って日も浅い自分ですら思ってしまうというのに、彼は必死に今までこの子を良くも悪くもコントロールしてきたのだなと、湯川は少し田中丸善樹を尊敬した。


「な、なぁ・・・」

「何?」

「栞ってさ・・・、善樹の事・・・、好き・・・、なのか?」

「え・・・?」


一瞬、その空間だけ時が止まる。早生のゴクリと唾を飲み込む音が、驚くほど鮮明に聞こえる。


「ゴクリ・・・」

「もう言ってるじゃんそれ・・・」

「は、早く答えろよ‼」

「そうだな・・・、好き・・・、かな?」

「何なんだよさっきからその曖昧な感じは‼はっきりしろよ‼」


思った以上に真剣に迫ってくる早生に、湯川は少し戸惑いの表情を見せる。

それは、何となく分かってはいるが、何となく分かっていないような、今は口に出してはいけないような、そんな気持ちがグルグルと頭を巡って、それを必死に隠している、そんな表情でもあった。


「じゃあ・・・、ヒミツ」

「ッ・・・、それって・・・、そういう事か?」

「もう想像に任せるよ。おやすみ」

「おい‼寝るな‼おい‼」


面倒くさいという事にして、この状況を何とか乗り切る事に成功はした。

しかしこの後の事は・・・、いや、それも面倒くさい。

あとはあの男に、頼れる男に全てを任せよう、そう決めて湯川は布団の中に潜っていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る