take・57
「ふぅ・・・」
蜜鎖を起こさないようにそろりとベッドに入る。
有難い事に流石にベッドはそれぞれ分けてくれている。まぁ、当然なんだが・・・。
「おやすみ、蜜鎖」
「何で?」
神様って人は、いつも俺に意地悪だ・・・。
「いつから起きてた?」
「湯川さんと話してた時から」
だいぶ前から起きてんじゃねぇか。
「やっぱり私を選んでくれるのね。嬉しいわ」
「妥協しただけだ。あの早生とかいう生物よりかは話が通じる相手を選んだまでだ」
「それでも嬉しい。ねぇ、そっち行っていい?」
「ダメだ」
「じゃあ、こっちでいいわ」
気付いた時には背後に柔らかい何かと甘い香り。
忍びの如く、音も立てずに俺のベッドに入り込んでいた。
「おい、来るなって言っただろ」
「そっちがダメならこっちはいいでしょ?」
「そっちってどっちだったんだよ」
「善樹君の目の前」
「じゃあこっちは後ろってか」
「そうよ♡」
少々強引だが、可愛いという事は事実であるところが、俺はいつも悔しい。
やはり男という生き物は簡単で、単純な生き物なのだと我ながら呆れてしまう。
だが、いい。これでいいんだ‼
「違う」
「全然違わないわ」
「蜜鎖、俺を見ろ」
「俺を見ろと言って、相手に後頭部を向けている人を私は初めて見たわ善樹様」
「そうだ、俺はそういう男だ」
「うん。そんなところも大好きよ♡」
ダメだ。この女頭おかしい。こんな事してる俺が言えないけど・・・。
「はぁ・・・、分かった。一緒に寝よう。その変わり」
「エッチはお預け、でしょ?」
「そんな当たり前の条件を私は出しません」
「じゃあするのね‼」
「だから当たり前と言っているだろうが‼当たり前と‼」
「分かったわ。準備してくるから、ちょっと待ってて」
「いややらないから。することが当たり前という意味じゃないから」
「え?違うの?」
「そんな純粋な瞳で見つめんな。分かってやってんだろお前」
この子は、常に子孫を繁栄することしか頭に無いのだろうか・・・。
これで学年一位の成績が取れるのだから、意外と一位を取るのは簡単なのかもしれないな。
「善樹く~ん、さ~む~い~」
「もう七月だぞ」
「まだ夜は冷えるのよ。いつもみたいにギュってしてくれないと眠れないわ」
いつの間にかいつものルールとして確立されていた・・・。
相変わらずのアピールをしてくる蜜鎖は、この時だけ本当に子供みたいになる。
つまり面倒くさいという訳だ。
でも、こんな表情や仕草を見せるのは俺の前だけなんだと思うと、そのなんとも言えない気持ちで、無性に抱き締めたくなってしまうのだ。
「可愛いからいいか」と、そんな風に簡単に流してしまえて、どうでも良くなってしまうのだ。
全く、俺の悪いクセである。
「善樹・・・、君・・・?」
いざという時の余裕の無さは、俺と似ている部分かもしれない。
あんなに求めて来たというのに・・・。これも計算の内なのか・・・?
「もう寝ようぜ。おやすみ」
焦りを一切見せることなく相手を誘導する。
「うん・・・、おやすみ」
激しく脈打つ、俺の隠しきれていない動揺を蜜鎖は分かっていただろう。
でもそれでも、そんな俺だとしても、蜜鎖は強く離さずにいてくれた。
ただの抱き枕である。
「はぁ、はぁ、善樹君、善樹君・・・、んちゅ、んちゅ、善樹君・・・」
その夜は、一度抱き締めてしまった俺の決定的なミスにより、一晩中寝ぼけた蜜鎖から攻撃を受け続けるハメになった。
「善樹君、好きよ♡」
「ん・・・?お前まさか・・・」
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