take・56
「湯川・・・」
「何?」
「近く・・・、ないか・・・?」
「そう?」
早生と風呂に入った事は何度もあった。しかしそれはこんなものとは比にならない。今俺は、同級生の、ナイスバディの、しかも可愛い、女の子とほぼ密着した状態で風呂に入っている。
あれ?前にもこんな事があったような・・・。
いや、頭がおかしいだけかもしれない。おそらく何かの勘違いだろう。
「でも、前に棕櫚さんとホテルで一緒にお風呂入ったんでしょ?」
あれ・・・?
「あ、あれは~・・・、望んで入ったわけじゃないし、ノーカンだな」
「ふ~ん、そうなんだ。じゃあ、これが初めてだね」
「あ?あぁ・・・、何の?」
「一緒にお風呂」
「いや・・・、まぁ、湯川とは初めてだけど・・・」
「そっか、そうだね」
ゆっくり肌と肌が触れて行くのを、俺は自然と受け入れていた。
いや、望んでいたのかもしれない。
その温かい感触が、湯川をとても感じている事が、凄く、嬉しかった。
「そろそろあがるね」
「俺ももうあがるわ・・・、そういえば何か静かじゃないか?あの二人はどうした?」
「私に聞かないでよ。おいてきたの田中丸君じゃん」
「あれ?そうだっけ・・・」
急に襲い掛かってくるかもしれないので、恐る恐る脱衣所の戸を開けると・・・。
「い、いない・・・」
そこに二人の姿は無く、執事のおじさんが一人俺達を待っていた。
「ゆっくり浸かれましたでしょうか?ベッドの用意が出来ておりますので、お部屋でゆっくりなさって下さい。それでは」
「あの‼」
「何でございましょうか?」
「早生と蜜鎖は・・・?」
「お二人でしたらもうお部屋でお休みになられています」
「え?でも、あの二人ずっと喧嘩してたんじゃ・・・」
「はい。善樹様達が入られた後、更に激しくなりまして、お嬢様がどこからかバールのようなものを持ち出してこられましたので、お客様に、ましてや棕櫚様にお怪我をさせては大問題ですので、私の方で処理させて頂きました」
こ、この爺さん・・・、一体何者・・・?
「じゃ、じゃあ部屋、戻るか・・・」
「そうだね・・・」
あの二人はきっと安全な場所に隔離されているのだろう。これで安心して夜を過ごせるというものだ。
「こ、これは・・・」
そう、俺と湯川の二人部屋かと思いきや、俺と蜜鎖、湯川と早生というそれぞれ大丈夫な人と大丈夫じゃない人との相部屋だったのである。
「何でいちいちこういう事するんだよ」
「私は別に平気だよ」
「俺が平気じゃねぇよ」
「じゃあ交代する?」
「いや、早生とは怖い」
「じゃあそのまま?」
「いや、それも怖い」
「じゃあ、どうする?」
「・・・・・・」
俺はお前とがいい、なんて言えるわけがない。
もし、俺が湯川の彼氏だとしても、俺はそんな格好付けた言葉を平気で吐ける男では決してない。ましてや今目の前で寝ている二人が「実は起きてました」なんて事態が起こった時には、このか弱い男子が一体どうなってしまうのか皆目見当もつかない。とてつもなく恐ろしい結末を迎える事となってしまうに違いないだろう。
「み・・・、蜜鎖と寝るわ・・・」
「そっか・・・、じゃ、おやすみ」
何でそんなにあっさりしているんだ・・・。あ、別に湯川はどっちでもいいのか。
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