take・59
第八章
咲川家合宿二日目、すなわち普通に学校である。
もうすっかり夏休み気分の生徒達が、ダラダラと授業が終わるのを今か今かと待ち望んでいる。そんな時期である。
まだ成績出てないけどな。
しかし夏休みといっても、部活はある。
当の本人達が分かった上で言っているのなら、分かった上でその気分なのなら、もう学生の鑑といっても過言ではないが、そうではない我ら屋内活動クラブは、とてつもなく物申したい気分であるという事は明々白々であり、誰になんと言われようと絶対に譲れない決定事項である。
「プール掃除・・・?」
こんなクソ熱くなってきている中プール掃除?
「いいでしょう?」
このオヤジ、イントネーション変えてきやがった。
「ウチの学校はプールを使っていない筈です。何故掃除をするのですか?水泳部は市の屋内プールを使っていると聞いていますが」
「時期的にもう使っててもおかしくないのに、何で掃除してないんだよ?使いたいなら水泳部か使いたい奴らで掃除しとけば良かったじゃねぇか」
「大変そうですね・・・」
三者三葉の文句が飛び交う中、部長の俺が鋭く切り込んで見せる。
「男の為なら働きたくないです」
「それはどのような理由で?」
「女子の水着の方が俺的に需要あるからです」
「ちょっと何を言っているか理解しかねますね」
「あんな汗臭い奴らの水着姿の為に、俺は汗を掻きたくありません」
堂々と威勢よく畳みかける事により、より一層言葉に力を持たせる。
曇りない瞳で見つめる事数分、校長がゆっくりと立ち上がった。
「分かりました。では女子更衣室にカメラを・・・」
「おい校長」
「冗談ですよ」
冗談でもそれはダメだろ・・・。
「では・・・、女子水泳部と一緒に泳ごうの会を開催して差し上げる、というのは?」
「泳ぎたくないので嫌です」
「女子水泳部の練習を見学出来る、というのは?」
「可愛い子いますか?」
「貴方の好みを私は把握していないのでなんとも・・・」
あまりの条件の悪さに、イケイケ男子高校生・田中丸善樹のテンションは上がらない。
ぶっちゃけ自分でもどうしたいか分からなくなってきているその時・・・。
「では・・・、掃除が終わったら、一番に屋内活動クラブで一日遊ぶ、というのは?」
「ん~・・・」
「いいなそれ‼」
「私の水着が見られるわよ善樹君」
「たまにはプールもいいかもね。タダだし」
「どうしますか?他の方々は賛成のようですが」
「じゃ、じゃあ・・・」
「感謝します。それでは今週末の土曜日、宜しくお願い致します」
結局無難で在りがちなところに落ち着いてしまうのが、俺達の良いところであり悪いところでもあったりして・・・。
でも、美少女の水着が見られるという事に変わりは無いのか・・・。
この先に一抹の不安はありつつも、この先のイチモツの不安は少しは解消されるのかもしれない、今日この頃である。
繰り返すように風呂で喧嘩をし、誰と寝るかで争い、結局処理されて終わった咲川家合宿だったが、その締めくくりとして用意された舞台が遂にやってきた。
「寒いじゃん・・・」
もう七月も終わり、ほぼ夏というのに、空は曇り、いつ雨が降るか分からないというまるで俺達を祝福しているかのような天気である。
「あらあら、そんな筋張った見っとも無い女子とは思えない体では風邪を引いてしまうわよ咲川さん。そう思わない?善樹君?」
ムニュッと、いかにも夏な感触で俺の腕を刺激するのは、何とスクール水着ではなくビキニの蜜鎖であった。
「お、おい‼お前、何でスク水じゃないんだよ⁉」
「だって、善樹君が持ってるじゃない」
「え?俺持ってないけど・・・」
「引っ越し祝いに挙げたでしょ?ちゃんと使ってくれてるんでしょ?」
「そんな事してたんだ・・・」
湯川さんがシンプルに引いているのはさておき、今俺の手にスク水が無い事を正直に伝える。そして今、誰が所持しているのかも・・・。
「そんなこ汚ぇモンアタシが捨てた。男にそんなモンやるとか、マジで頭おかしいだろ」
「貴方はそうやって、自分がおかしいと決めたら全てがおかしくなってしまうのね。別に愛の伝え方は人それぞれ。それで貴方に何か不利益があるわけでも無い。ましてやせっかく私がプレゼントしたそれを没収されて善樹君は悲しんでいる。もう貴方はただの自分勝手なメンヘラ女でしかないけれど・・・。はぁ・・・、善樹君?今日が終わったら、このビキニを善樹君の目の前で脱いで、そのままプレゼントするわね♡」
女共の冷戦を目の前に、苦笑いすら出来ない俺である・・・。
「でも、脱いだら裸になっちゃって恥ずかしいから・・・、善樹君が私を抱き締めながら全力で隠してね♡家まで」
この状況で更に凄まじい砲撃を放てるとは・・・。何て装填速度の速さ・・・。
筋金入りのド変態に、流石の早生さんも返す言葉が見当たらないようで、諦めてトボトボとプールに入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます