take・49

「田中丸君さ、選んでよ」

「おい、それはいくら何でもハードル高過ぎだぞ」


突然のリクエストに、変な汗が止まらない事この上無し。


「そんなに考え過ぎなくていいよ。田中丸君の好みで」

「そうなると何か・・・、なんというか・・・、俺が選んだ服みたいになっちゃわないか?」

「そうだよ」

「何でだよ⁉」

「いや、そのまんまだよ」

「何だよそれ・・・、俺に何をしろっていうんだよ・・・」

「これとかどう?どっちがいいと思う?」

「聞けよ‼」


湯川は簡単に言うが、俺にとってそれは全く簡単では無い。

変なものは選びたくないし、出来れば湯川に似合って、湯川に気に入ってもらえるものを選びたい。そんな理想を浮かべてはいても、実際は何が似合うのか、湯川の好みは何なのか、ガウチョパンツとは一体何なのか、そんな事がずっと頭の中をぐるぐると回っている。


「じゃあさ、田中丸君は女の子の服で好きなのとか無いの?」

「いや、俺基本着ないし・・・」

「服着ないの?」

「いや、一応着てるけど・・・、女物の服は着ないので・・・」

「ごめん、そういう意味じゃなくて、女の子に着て来てほしい服の好みは?って事」

「あ、あぁ~、それはそれは」

「まぁ、でもファッションは人それぞれだからね」

「でも流石に男がワンピは着ないだろ?」

「う~ん、どうだろう?」


いや、このご時世だし別に・・・、いやそんな場合ではない。


「ま、まぁそれは良しとして。女の子に着てほしい服・・・、だろ・・・」

「出来れば夏に着られるやつでお願い」

「ハードルを上げるなよ・・・」

「冬の方が簡単なの?」

「いや変わらんけど・・・」


今目に入ってくる服の中から、湯川に似合う俺史上一番の服を選ぶ。

直感か熟考か、それとも店員に聞くか。

いや、それは真面目に怒られそうだからやめておこう。


「・・・」

「ぬぅ・・・」

「やっぱり・・・、いいや」

「!!」

「ごめんね、無理言っちゃって」

「いや・・・、いいのか?本当に」

「うん。何か凄い悩んじゃってるみたいだったし。田中丸君の好みが知りたかっただけだから」

「そ、そうか・・・。でも、何かごめんな。今日、俺何もしてないし・・・、多少は役に立てたら良かったんだが・・・」

「全然大丈夫だよ。ずっと荷物持っててくれてたし、凄く助かったし・・・、それに・・・」

「?」

「二人で楽しかったよ」

「そうか、なら良かったよ」

「でも、やっぱり何か記念になるものがあってもいいよね?」

「そ、そう・・・、だな・・・」

「だから・・・、はい、これ」

「何これ?」


湯川に渡されたのは、小さなメモ用紙。


「裏に書いておいたから」

「何だよ・・・、こ、これはッ・・・、ID?」


そこに書いてあったのは、メッセージアプリのIDだった。


「まだ、連絡先交換してなかったと思って。一応、知っておいた方が、後々楽でしょ」

「お、おう。ありがと・・・。で、これは?」


湯川はメモに続いて、紙袋を差し出してきた。


「中、見てみて」

「ん?」


紙袋の中には、「絶対この袋いらないだろ」と突っ込みたくなるサイズの白い箱が一つ。


「べ、ベルト?」

「うん。田中丸君、制服のベルト結構ボロボロだったから、似合いそうなの丁度見つけてさ、「これだ」って思って」


意外と、よく見ててくれてたんだな・・・。


「いいのか?こんな・・・、結構良さそうなモノを・・・」

「うん。今日付き合ってくれたお礼。よければ使ってね。ちなみに私のお父さんと色違いだよ」

「・・・、あ、そですか・・・」


これが、湯川栞という女の子の、抜群のセンスなのだ・・・。

言葉のチョイスにセンスは感じないのだ・・・。

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