take・50
「むむむ・・・」
「こんな場所からコソコソ見てるだなんて、いかにも負けヒロインって感じね咲川さん」
「うるさい‼ていうかアンタだって同じようなモンだろうが‼」
「違うわ。私は私の男が他の女子に失礼な事をしていないか、見守りに来ているだけよ」
「簡単に言うとストーカー女って事だな」
「ほら、下らない事言っていると見失うわよ」
「マジでこの女、いついかなる時もどんな場所にいようと善樹を追いかけていきやがって・・・、本当に、元カリフォルニア州知事の代表作みたいな奴だな・・・」
「とても分かりにくい例えを感謝するわ咲川さん」
明らかに挙動がおかしい二人組が、一組の男女を一定の距離を保ちつつ追っている。世間ではこのような行為を「尾行」というらしいが、彼女達は決してそんな犯罪じみた行いをしている訳ではない。
心配、をしているのだ。
田中丸善樹という男が、大切な仲間である湯川栞に対していかがわしい事をしてしまわないかどうか、きちんと男としての振る舞いが出来ているかどうか、監視しているのである。
決して、やましい事はしていないのである。
「湯川栞め・・・、意外にやってくれるじゃねぇか・・・」
「そういうセリフがとってもお似合いね咲川さん。もっと聞かせてほしいくらいだわ」
「お前の身包み全部剥がして通路のど真ん中に放り出すぞ」
「そんな事したら善樹君が悲しむわ。貴方自らやりなさい咲川さん」
会話の絶えない仲良し二人は、ターゲットが帰りのバスに乗ったのを確認し、自らも帰宅の途に着く・・・。
「おい、何でついてくるんだよ。アンタの車は?」
「乗せてもらえないかしら」
「だからアンタの車はどうしたんだよ?」
「無いわ」
「何で?」
「ここまでバスで来たからよ。善樹君達が乗ってるバスに途中から乗ったのよ」
「お前そんな時から善樹の事つけてたのか?」
「つけてるとは失礼ね。遠くから見守っていたのよ」
「ガチでストーカーじゃねぇか」
「だから、家まで送ってもらえないかしら」
「ウチは犯罪者は乗せない主義なんでね。歩いて帰ってもらおうか」
「それはいけませんお嬢様」
ここでまたしても老執事がその姿を現す。
「何でジイが出てくんだよ」
「この棕櫚様のお父様が経営なさっている会社とは、旦那様の会社といくつか取引をさせて頂いております。なので、旦那様の為にも会社の為にも、そのご令嬢を置き去りにするという事はいくらお嬢様の頼みでも、受け入れかねます」
「お、お前、お嬢様だったのか・・・?」
「まぁ・・・、社長の娘である事に間違いは無いわ」
「どこの・・・?」
「麒麟島グループよ」
「めっちゃ大手じゃねぇかクソが・・・。何で黙ってた・・・?」
「別に言う必要無いじゃない」
「まぁ・・・、そうか・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「貴方、本当に疲れてるんじゃない?」
「あう・・・」
執事が、ゆっくりとドアを開け、二人は車へと乗り込む。
走り始めてからは、特に会話は無く、一人は窓の外を眺め、一人は爆睡を決め込み、執事が必死に姿勢を直すも、幾度となくシートベルトで自らの首を絞めにかかっていた。
「かッ・・・、よ、善樹・・・、助・・・、助け・・・」
「どうしたらそうなるのよ・・・」
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